「そういえば、橘って親友だろ? いくらクラス違ってもお昼は一緒に食べるもんじゃねーの?」
「皐月が『同じクラスでも友だちはつくりなさい』って言うから」
「そりゃまあそうか。それで、今はぼっち、と」
「ぼっちではなかったんだけどね」
 私がそう言うと、八王子の額に【いや、ぼっちだろ】という本音が。
「そういう八王子だって、完璧なキャラ演じて疲れてるんでしょ?」
「疲れることもあるけど、もう作業になってるって前も言ったろ」
「それってなんだか……」
「萌がうちの高校に入った時に、『お兄ちゃんは完璧』って思ってもらえるなら、俺は疲れてもいいんだよ」
「妹さんが別の高校入りたいって言ったらどうするの?」
「何としてでもうちの高校を入りたくなるように、仕向けてる」
「ああ、酷いシスコンだわ」
 私がそう呟いた時、屋上の扉が開く音がした。
「八王子君。ここにいたんだ」
 そう言ってこちらに歩いてきたのは、うちのクラスの女子とそれから歩くスピーカーこと鈴木。
「なに?」
 八王子は、作り笑顔をべったりと貼りつけて二人を見る。
 その額には【うっわ、なんでよりにもよって鈴木もいるんだよ】と浮かび上がっていた。
 うん、それには同意。
「沢渡ちゃんがー、八王子君に言いたいことあるんだってー!」
 やたらとデカい声で鈴木が言った。
 もじもじしている沢渡という女子。
 ああ、なるほどこれは告白か。
 私はそう思ってそっと退散する。

 屋上の扉を閉めた直後、「好きなの。付き合ってください」という沢渡さんの声が聞こえた。
 なぜか私は、八王子の返事まで聞こうとしている。
 なにやってんだ、別に八王子が誰と付き合おうが関係ない。
 そもそも性格悪いから皐月にだって、紹介したくないほどの男子だ。あと酷いシスコン。
 そんな奴が告白されたから、私はその後の行方を見届ける義理はないし、八王子だって聞かれたくないだろう。
 だけど、それでも私はその場から石のように固まって動けない。
「ごめん。俺、沢渡さんとは付き合えない」
 八王子の言葉に、ホッと安心した。
 いや、これはあれだよ、あれ。
 沢渡さん、むしろフラれて良かったよ、だって八王子って酷いシスコンだもん。
 そういう安堵だ。
「ひっどーい! 八王子君。沢渡ちゃん、泣かしたー!」
「鈴木さん、私別に泣いてないけど」