その額には【俺もビックリしたけど出来にはバレてない】という文字が。
 今、思いっきりバレたけどね。
 シスコンのくせに見栄張っちゃって。
 私は呆れながらも、作り物の目に恐る恐る近づく。
 プラスチックのケースに入った目玉は一つだけ。
 その目がよくできている。
 表面なんか触ってもいないのにぶよぶよしていそうだし、黒目とか今にも動きそう……。
 正直、作り物だとわかっても、直視するのが気持ち悪いくらいだ。
「よくできているけど、誰が何のために作ったんだろう」
「演劇部の大会がもうすぐらしいから、その小道具だろ」
「あー。だからここ、色々物があるんだ」
 私はそう言うと、周囲を見回す。
 六畳くらいのスペースには、本棚と机、それから衣装やら作り物の武器なんかまである。
 しかも、どれも出来が良い。高校生の演劇部にしては本格的だなあ。     
 私はそこで八王子に聞いてみる。
「あれ? 演劇部の大会のこと知ってるってことは、シスじゃない、八王子って演劇部?」
「出来、お前さっき『シス』って言いかけただろ」
「言ってないよ。気のせい、気のせい」
【こいつ俺のこと心の中でシスコンって呼んでるな】
 おお、その通りだよ。
 ついさっき八王子に呼び方を戻してあげたけど。
【まあ、シスコンは事実だけど】
 認めるなよ……。
 私は呆れたように八王子を見るけど、奴は睨み返してくるだけだった。
「俺が演劇部で何が悪い」
「別にそれは悪かないよ」
「まあ、今はちょっと休んでるけどな」
 八王子はそこまで言うと、こちらに手を差し出してくる。
「じゃあ、俺がプリントを半分持つ」
「え? 半分だけなの?」
「出来も持っているほうが、『手伝った感』が出ていいんだよ。全部、持つと俺が頼まれだけみたいに見えるだろ」
「そこまで計算済みだと、怒りを通り越して哀れみを感じるよ」
「出来に同情されると傷つくからやめろ」
「お前のその言動も、私を傷つけているけどね」
 そんなこと言い合いながら、私と八王子は『社会科資料室』を後にした。
 
 
 それから私と八王子は、約束もしていないのに屋上でお昼を食べるのが当たり前になった。
 お互いに『一人で食べている』という認識ではあるので、気が向いた時に話しかけたり話しかけられたりして、実に気楽な時間。
 ある日、ふと八王子がこう聞いてきた。