なんとなく、そちらをちらりと見ると。
 卵焼き、から揚げ、アスパラのベーコン巻き、ほうれん草のおひたし、俵型のおにぎり二個という、かなりきちんとした上に美味しそうなお弁当だ。
「まさかまた録音とかしてないよな? それならもう出来さんのスマホごとここから投げ捨てるだけだけど」
「してないよ。……ってゆーかスマホごと? それって私も投げるって意味か!」
「そう解釈してもかまわないけど」
 冷静な物言いでも、怒りをまとった口調に私は黙りこむ。
 額には【出来なら俺でもなんとか担ぎ上げられそう】と。
 物騒な!!!
 一昨日までの、完璧王子だと信じていた時であれば絶対に信じない言葉だけど、今はこいつの怒り狂う姿も想像できる。
 とりあえず怒りを鎮めよう。
「八王子君のお弁当、美味しそうだね」
「やらねえよ?」
「いらねえよ」
「じゃあ、なんだよ」
 シスコンがこちらを睨みつけてくる。
「お弁当きれいで美味しそうだなあって褒めようと思ったけど、もういい」
「俺が作ったんだから当たり前だろ」
「へー。お母さんとかじゃないんだ」
「今の時代、男も料理はできるようになっておくべきだし、何よりも料理ができると周囲の受けがいい」
【毎日はなかなかキツイけど】という本音が額に現れる。
「なんでそんなに周囲の目を気にするの? 妹さんは中学生でしょ?」
「自慢の兄を続けるのは悪いことか?」
「別にいいんじゃない?」
 私の言葉に、【疲れたなあ。早退してえ】という本音がシスコンの額に見えた。
「誰にでも優しくするのって疲れない?」
「無心でやれば作業みたいなもんだ」
 シスコンの言葉に納得した。
 だから、最初の頃は額に何も見えなかったんだ。
 無心でいたから、本音が見えなかったのか。
「なんか仕事みたい」
「今から仕事の経験ができるって貴重だろ」
「前向きだなあ……」
「出来さんに言われると、バカにされてるようにしか聞こえない」
「ひどいな……。してないよ……」
 私がそう言うと、シスコンが突然笑いだした。
「おいおい。『バカにされてるようにしか聞こえない』は冗談だったけど、本気で落ち込むなよ」
「落ち込んでないし」
「いやー。なかなか、からがいがありそう」
 そう言ったシスコンの額には【こいつ面白い】と書かれてある。
 やっぱり、性格悪いな!