「他のクラスメイトには、継続するのね?」
「そうだよ、俺のイメージだからね」
 八王子君が何やらそわそわしている。
 額に【トイレ……。早く解放しろこのバカ】と書かれてあった。
 うっわー。こいつ、けっこう性格悪いな。
 私は一切の情を捨てることにした。
「そっかー。しょうがないなあ。じゃあ、今のキャラが本性だとか萌ちゃんのこととか、クラスの鈴木さんに話しちゃおっかなあ」   
【うっわ、あの歩くスピーカーに話す気か!】
「どうせ誰も信じないだろ」
「録音してるのに?」
 私がそう言ってブレザーのポケットに手を入れると、八王子君は舌打ちをした。
「今日だけな!」
 それだけ言うと、八王子君は私を睨みつけてトイレへと走って行った。
 私は小さくなる八王子君の背中を眺めて満足していた。
 だけど、ふと疑問に思う。
 あれ? あんな性格の悪い奴、皐月とくっつけちゃまずいんじゃあ……。
 私はそう心配したものの、こう思い直す。
 あんな態度を取るのは私だけかも。
 好きな人にはもっとデレかもしれないし!

 お昼休みの屋上には誰もいなくて、私と八王子君の二人きり。
「橘さんが来るとか言ってなかった?」
 八王子君の問いに、私はため息をついて答える。
「さっき誘いに行ったら、生徒会役員の会議があってお昼を食べながらやるんだって……」
「へえ、生徒会役員なんだ。さすがだね。誰かさんとは大違い」
 八王子君、もといシスコンはそう言って鼻で笑った。
【なんでこいつと二人きりなんだ。罰ゲームかよ】と額にも本音が。
「ってゆーか、八王子君ってなかなかに性格悪いよね。それでよく『完璧王子』だなんて呼ばれてるよね」
「そのあだ名、ダサいよなー……」
 シスコンはそう呟くと、その場にどかりと座りこんだ。
 あれ? 教室に帰らないの?
 そんなことを考えていると、シスコンは言い訳みたいに言う。
「たまにはこういう静かなところで弁当を食べるのもいいかもな」
【田中たちに『今日は一人で食べたい気分だから』って言ったから戻りにくい】
 額の本音は正直で、そして納得。
 私も教室に戻ってもぼっちだし、今日は皐月は生徒会役員室だし、ここでいいか……。 
 そう考えて、私もその場に座りこんだ。
 シスコンは「まあ、隣に変なのいるけど」とか呟きつつ、お弁当箱を開けた。