『ガーッッ、グンッ…。ガーッッ、グンッ… ガーッ… ッ… グ…』

MAXで、働いてんなあ、
ワイパーちゃんよ。

ちっ!湿気った雪!
雪!雪!雪!
フロントにどんどん、張り付いてきやがる。

なんだろな。
雪雲が低く降りてきやがるみたいな、グレーの空ってのは。

独特なんだよ、琵琶湖の冬ん空ってよぉ。
毎日みてっからな。

しっかし、こんな雪ん中、行くか?
悪りいが、親父ん時でさえ、葬式 出てねーんだぞ。くそ!笑わせんな。
バカか、オレぁ。


10年以上か?
そんな会ってねーんだな。


じゃあ なんで、今日は来たかだぁ。決まってる。

オカンの、お気に入りだったんだ。ぜってー来るって
解ってたんだよ。


ああ、物心つくってのは、
一体 幾つなんだろうな?

弟妹なんざ、いやしないもんだから、
最初は、妹って奴が、
こんな 面映ゆい もんか?

って、わかんねー
モヤモヤが
始まりなんじゃねぇか?
っつーなら、

そりゃ幼稚園ぐらい
ガキん頃 って、なるんだろうな。

オレん腕、
まだ、久しぶりで
緊張が解けねぇくせに、
掴まるしかねぇ、手ぇ。

かわんねぇな。

絶対って、今考え、
漏れてるよなあ。

雪に囲まれてっと、
密室にいてっとか?
なんだ 排他的?になんのな。


モヤモヤが
わかんねーながら形になって、
もうこりゃあ、
妹なんざじゃねぇ、な、
思ったのが、

親父ん膝に、座って
メシにするの
見んのが、
気に入らんねくなった
あの時だ。
同族嫌悪だな。

小学のガキが、
腹んあたりに、立ち上がるモン、
堪えた瞬間だよ。

思やぁ、あれが、
癇癪って、ガキの皮被った
初めての悋気ってやつだろ。

あん時から、
マジの感情ってやつは、
ゲスな言いだがよ、
身体の芯から、
それこそ、下半身から
グアッと一気に沸き上がるんだよ。
見てりゃ、
上がったまんま、
心臓が降りてこねぇ感覚だ。
なんて名前の感情なんか
わかんねーよ。

小学生になったから、つー理由で、レンの奴が
親父んとこでメシ食わせんの
止めたのも、

オレと、
思ってんとおんなじじゃね?

って、気がした、
本能的牽制の始まりだな。

「停電の雪の夜」なんざ、
字面みりゃ、穏やかなもんだろう?

そんなわけねぇよ。
グツグツ
鍋から 立ち上る蒸気みてぇな
昔ん感覚が、
戻ってきてんだよ、
下半身から上がって、降りねぇ
激情みたいなのがな。
肌が奥んとこ
ガクガクしてんだよ。

ガキん時、 夏ごとに
この感情が 来ぇなら、
オレ、違ったんじゃねぇか。

それとも、やっぱ、オレだからか?
レン。
極端に オレと 違う、
レンは、
どうなんだろな。

ふつーに、女友達も、
彼女も、嫁も
ふつーの男で、
ちゃんと好きや、恋しい、
愛しい、持ったんだけどなあ。

あんな、感覚あるとな、
知ってるとなあ。

好きも、
恋しいも、
愛しいも
縛りのねぇ、許された

『ほかの人間』に持つ
自由に、
胸に湧く
『最大の感情』なんだよ。

歯噛みして、
下から上がる
血の沸騰みたいな情を
押し込んで
そういうわりにゃ
存在を感じりゃ、
自分だけが
吸い込めたって
事実に
惚けて、
恍惚とする。



同族思慕っていうのか?
わかんねー。
拳にぎってるだけしかねぇ。
掴みきれねぇから、
欲望すんだろな。

なあ、
『モノが持つ力』?
それが
オーラみたいなもなら、
今のオレは、
グッと 静かに
烈情を 纏った
入れ物 だろうよ。

きっと
レンの目にも、
ダルマストーブの炎ごしに
オレの燃えている
モノが見えてんだろが?

その名器を オレ如きが
手には出来ねぇ?!
そうだろなあ?!

いったい
どこまで、 俺達は、
その血を惹いている?!

アイツが、
レンが、いなけりゃ、
オレの、理性なんざ、
とうの昔に、

焼き切れてるだろうが!!


オレは、胡座の膝に置いた、
手を組んでる、この瞬間 でも、

その業火に
あの夏から
ずっと心を焼かれてぇんだよ。