青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 と、やたらに同意してたので、千円だけチャージして改札を通った。
 なんか、人って成長しないな。
「ちなみに尼崎って片付け後回しにするタイプだよな」
「大滝もだろ」
「まあな。昔から変わってない」
「いいじゃないか。変わらないってのは大切な事だ」

 ◇

 真新しい制服やスーツを着た大学生やら高校生やらが次々と電車から降りて行き、残りは車両にほとんどいない。
 どうやら大滝は僕の家とは隣駅らしく、先に電車を降りる感じになるらしい。
 この光景が、高校生活では恒例になっていくんだろう。
「じゃ、明日。部活見学まわろうな」
「ん。またな」
 軽く別れの挨拶を交わして、再び電車に揺られる。
 見渡せばもう誰も乗ってない。隣駅で降りたらしい。にしても一人ぼっちの電車ってのは、なんか怖い。
「珍しいな。割と混んでる時は座れないのに」
 正午過ぎという時間帯のせいだろうと勝手に納得して、到着を待つ。
 電車のアナウンスが小さいスピーカーから鳴った。音がつぶれて聞き取りにくい。
「ご乗車ありがとうございます。まもなく――」
 段々と電車がスピードが落とし、駅に着く。
 のんびり開いたドアから出て、僕はホームになんとなく突っ立って周りを見渡した。
 すると、珍しいな光景があった。
 人がいない。
 誰もいないホームなんて結構な確率だ。ちょっと気持ちがいい。ここ一帯が自分の縄張りみたいだ。
 ……と、思った矢先、なんだか黒いヤツがトコトコと僕へと走るように、近づいてきた。
 せっかく気分が乗ってきたのに、なんなんだよ、もう。
「ミャオ」
 近づいてきたそいつは野良猫だった。しかも黒いの。なんだか非常に可愛げがない。怠そうっていうか、やる気がない感じの変なヤツ。
 屈んで近くで見てみる。そしたら、のんびりとそっぽを向いて欠伸をされた。
 憎たらしい顔しやがる。
「お前、名前は?」
「ミャ」
「……僕がつけてやろうか?」
「ミー」
 嫌がってんのかよく分からなかったけど、このままだとなんだか癪だし、命名を直々にしてやる事にした。
 僕は無理矢理、野良猫を腕に抱えて頭を撫でる。すげえ嫌な顔されたけど、まあそれは見逃してやった。
「お前はマミ。真っ黒でミャオって鳴くから。字面はそうだな……」