僕も開かれたその中に入場券を入れようとする。意外に中には使用済みの物が入っている。結構キツキツだから、割と重いだろう。
「もう電車来るよ。いそご」
「おう、そうだな」
トランクを閉め終わって、マミが駅長室に戻って行く。先にホームへ出た彼女に続いて、僕も改札を抜ける。
「……」
あの時の、先生が乗ったのと同じ場所へ立ってみると、改めて不思議な感じがした。
向こう側に渡る為のプラットホーム。
駅名はもちろん、チラシやポスターも一切貼ってない。あるのは、古いベンチと六時三十二分を指し示す時計。
再びクラクションが鳴って、ガタンゴトンとレールを走る、月の色をした、どこへ向かうのかも、何両編成かも分からない電車が見える。
「今度は、足踏み外すなよ」
「大丈夫。もう、未練はないから」
「……そっか」
吹きつける風と共に、車両が金属音を出して到着する。
誰も乗っていない、一人の為に走る電車。
昔聞いていたこの町での十六時三十に鳴る"夕焼け小焼け"。あの曲が今は発車のベルとして六時三十分過ぎの構内に響く。
そして彼女だけのドアが開いた。
「必ず……また会おうね」
前に足を進めながら、彼女は僕に言う。
「笑顔で。笑って」
こちらを決して振り返らず、ゆっくりとした足取りで、乗ってしまう。
「約束だよ? 泣き顔はダメだから。必ずいつの日かまた」
僕の届かない、帰って来てはいけない世界へと。
「じゃあね……」
震える声で、今にも崩れそうに肩を小さく揺らして。
「…………あと、さよなら」
閉まるドアの先で、お互いに見せられない顔をして、辛くなるから、必死に引き止める事もしないで、淡々と僕らの最終回が――終わった。
「――ひょうごくん」
僕が顔を上げた時、もう電車は動いていた。
2
言えなかった。
別れを、僕は言えなかった。
違う、こんな終わり方嫌だ。
僕は僕の別れをちゃんと告げたい。
あいつに、言いたい。
「くそっ!」
ノロノロと走り出す電車を尻目に僕は改札を飛び越えて駅を出た。
自転車の鍵を無理矢理ポケットから出して、急いで自転車に乗る。
ダメだ。これじゃダメだ。もう遅いかもしれないけど、ダメなんだこのままじゃ……!
ペダルに足を勢い任せに乗っける。痛い。でもそんなの今気にしてる場合じゃない。
「もう電車来るよ。いそご」
「おう、そうだな」
トランクを閉め終わって、マミが駅長室に戻って行く。先にホームへ出た彼女に続いて、僕も改札を抜ける。
「……」
あの時の、先生が乗ったのと同じ場所へ立ってみると、改めて不思議な感じがした。
向こう側に渡る為のプラットホーム。
駅名はもちろん、チラシやポスターも一切貼ってない。あるのは、古いベンチと六時三十二分を指し示す時計。
再びクラクションが鳴って、ガタンゴトンとレールを走る、月の色をした、どこへ向かうのかも、何両編成かも分からない電車が見える。
「今度は、足踏み外すなよ」
「大丈夫。もう、未練はないから」
「……そっか」
吹きつける風と共に、車両が金属音を出して到着する。
誰も乗っていない、一人の為に走る電車。
昔聞いていたこの町での十六時三十に鳴る"夕焼け小焼け"。あの曲が今は発車のベルとして六時三十分過ぎの構内に響く。
そして彼女だけのドアが開いた。
「必ず……また会おうね」
前に足を進めながら、彼女は僕に言う。
「笑顔で。笑って」
こちらを決して振り返らず、ゆっくりとした足取りで、乗ってしまう。
「約束だよ? 泣き顔はダメだから。必ずいつの日かまた」
僕の届かない、帰って来てはいけない世界へと。
「じゃあね……」
震える声で、今にも崩れそうに肩を小さく揺らして。
「…………あと、さよなら」
閉まるドアの先で、お互いに見せられない顔をして、辛くなるから、必死に引き止める事もしないで、淡々と僕らの最終回が――終わった。
「――ひょうごくん」
僕が顔を上げた時、もう電車は動いていた。
2
言えなかった。
別れを、僕は言えなかった。
違う、こんな終わり方嫌だ。
僕は僕の別れをちゃんと告げたい。
あいつに、言いたい。
「くそっ!」
ノロノロと走り出す電車を尻目に僕は改札を飛び越えて駅を出た。
自転車の鍵を無理矢理ポケットから出して、急いで自転車に乗る。
ダメだ。これじゃダメだ。もう遅いかもしれないけど、ダメなんだこのままじゃ……!
ペダルに足を勢い任せに乗っける。痛い。でもそんなの今気にしてる場合じゃない。
