青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 券売機の下で寝っ転がるマミは、トランクの首輪をカタカタと揺らしては、欠伸をしている。
 ずっと待っていたのだろう。
 僕はマミのいる、錆び付いた券売機まで歩き、上の駅名の無い路線図を見上げる。
 一番高いであろう切符。でもそこには値段は書いてない。
 どうやって使うんだよ、これ。
 ため息を漏らしつつ、券売機に唯一の書かれている文字であった"入場券"のボタンを押す。
 お金を入れていないから、当然何も出て来ない。
 けど、そこでマミがトコトコと僕の前に現れる。
 口に、青い紙をくわえて。
「アナログだなぁ、おい」
「ミャー」
 どうせすぐに駅長に渡す青い紙を、僕は大事にポケットにしまった。
 その光景を見ていた彼女は、楽しげに微笑んでいる。
「仲よさそうで何より」
「まあ、それなりに世話になったし」
 学校までわざわざ来て僕を案内してくれたくらいだ。後でかつお節くらいは買ってやろうと思いつつ頭を撫でてやる。
「あ、逃げた」
 しかし、結局直前で避けられてしまう。なんか、最後まで振り回されっぱなしだな全く。
 嘆息しつつも、僕は彼女と低すぎる改札の前に立つ。
 鳴り響く電車の到着を知らせるベルの音。スピーカーが古いのか若干歪んでいるその音を聞きながら、もう片方のポケットに手を突っ込む。
「過去の僕からのプレゼント。受け取ってくれ」
 あの時からずっと入れたままだった乗車券を、僕は彼女の前に出した。
 ずっと、引き止めてしまっていた、十六時三十一分で止めてしまっていた街から出る電車に、乗る為の券。これは、僕が使うものじゃない。彼女へ渡すものだ。
「うん。ありがとう」
「その冊子も、よろしくな」
「うん……今ならちゃんと将来の事、書けそうだよ。電車の中でやっとくね」
 大きな音を立てては、月の色をした電車のクラクションが駅に聞こえた。
 さあ、いとまごいも、終わりだ。
 マミがピョンと乗った改札へ、僕らは並んでは乗車券と入場券を手に持って、それを出した。
「ミャミャー」
 トランクをガタガタいわせて、その両方に鼻をつける。マミ――駅長的に行き先の確認をしてるのだろうか。猫なりの確認の仕方で。
「ミャ」
 オーケーが出たのか、トランクを彼女の手に乗せる。頭を撫でながら、彼女がトランクを開けて、そこに乗車券が入れられた。