青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

「この駅さ、僕は四月から毎日使うんだよ……学校は、隣町にあるからさ。だから……たまにさ……」
 目に溜まっていた涙を手で拭いて、僕は彼女にゆっくりと近づいた。
「会うかもしれないけど、そん時は、お互い泣き顔じゃないといいな」
「ふふ……先に泣いたのは……どっちですかね?」
「やめてくれ、恥ずかしい」

 そして僕は、彼女を強く抱きしめた。

 温かくて、優しくて、甘くて、本当に溶けていってしまう僕らの時間。
 感じるお互いの温度が、なんだかよけいに悲しくなって、腕に力が入ってしまう。
 ああ、なんだよ、また泣けてきちまったじゃないか。
「……ふふ、ドキドキする」
 彼女が耳元で静かに呟き、僕の背中に手を回して、しばらく黙っている。
 お互い喋れないのは、声が震えるのが嫌だからだろう。
 涙を拭かないのも、きっとそうだからだろう。
「なあ、心臓めっちゃ鳴ってんの伝わってくるんだけど」
「やー、それお互い様じゃん。恥ずかしいからやめて」
 笑いながら身体を離して、僕の肩を叩いてくる。そのブレザーの裾が湿っていて、本当にお互い様だなと実感する。
 目が合う。顔と顔が近い。こんな近くでお互い向き合うなんてなんだか変な感じだ。
「ここで、僕はチューすべき?」
 僕の冗談に、彼女は声を上げて笑った。
「ははは、ダメダメ。そんな事されたら、わたし渡れなくなっちゃう」
「マジで?」
「マジマジ。だから、それは他の女の子に取っておいてあげてよ」
「まあ、そうだな」
 それだけ言って、彼女は僕の頬を撫でてからかうように見つめた。
 僕らは僕らで、そういう恋愛沙汰にはならない関係だ。
 たぶん、これからも、そうなんだろう。
 なら、たまには言っといてやるか。
 僕の気持ちを。
「好きだぞ」
 互いの気持ちを。
「わたしも、好きだよ」
 向こうでも忘れないように、さ。
「行くか」
 そうして、彼女だけのベルが鳴り始めた。

 1

 駅のホームには、僅かに朝陽が差していて、旅立ちの季節を感じさせる光景だった。
 なにも書かれていない電光掲示板は静かに僕らを見守っているようで、妙に安心感があった。
 そして相変わらず壁には"Prank"の落書き。誰がなんの為に書いたのかは知らないけど、ひょっとしたら、ここの駅長のちょっとした"イタズラ"なのかもしれない。
 猫の、駅長の。
「ミャ」