青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

「……なあ、これだけは覚えているだろうから、聞かせてくれ。なんで、先生と――おじさんと、同じところに行ったのか。あまりにも突然過ぎてよ、やっぱり気になるんだ」
 ずっと最終回を無かった事にしていた。本当は存在した最終回を見なかった事にした。だから、紙芝居の最終回だって無い事になってたんだ。
 彼女の中で。
 僕は知っている。"レッドマスク"は最後どうなるのか、どんな結末を迎えたのか。
 おじさんが話してくれかのように、僕もその終わってほしくない物語の最後を聞きたい。
 大切な人だから、こそ。
 彼女は、すうっと小さく息を吸って僕にその理由を告げた。柔らかく、温かく。
「……踏み間違えちゃったの。本当はね、駅に入り込んだ猫を追ってて、足を滑らせたの」
 後ろから伝わる確かな温もりは、優しくも儚い。
 今にも消えてしまいそうな灯のように、その鼓動が僕に伝わる。
「じゃあ、自分から踏み出したんじゃない……のか」
「うん、うん。そうなんだけど、そうなんどさ……わたし、迷ってたから、わかんなくて…………ホームから落ちる時、これでいいんだって思っちゃってて……でも、やっぱわかんなくて」
 やがて、僕の心臓の音と同じくらいのリズムが伝わってきて、締め付けられるように胸が痛んで、また涙目になってしまう。
 泣いてばかりで、でもそれはきっと彼女も同じで、それ程にやはり『好き』でいて、一緒に居たくて、離れたくなくて、とっても幸せで。
 そう。僕と彼女は恋愛的なそれでも、恋人的それでもないからこそ、お互い『好き』でいて、素直にお互いの幸せを願える関係で、この先もそのつもりでいたくて――。
 でも、だからこそ、お別れをしなきゃいけなくて。
「けど確かなのは、もしね、もう少しここに居れたらって、どこかで思ってたの…………………………あの人と……あなた、と」
「……はは、『あなた』か。そっか。もう『君』はそうなっちゃったのか」
 ようやく登りきった上り坂。僕は自転車をその駅の駐輪場に停めて、後ろに立つ彼女を見た。
 上がってきた朝陽が、彼女を逆光に照らしていて、ちょっと色っぽかった。
「……ぱっつんは、朝陽に映えるな」
「……なにそれ」
「さあ」
 この街の最後の場所。最後の駅は、あの頃と全く同じで、けれどあの嫌な寒気も不気味さもなくて、ただそこに佇んでいるようだった。