青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

「僕、ここ通ってたんだよ。夏休みだけで辞めたけどな。推薦で高校受かったし」
「へえ……高校……かあ」
「お前と同じ高校だったら、すげえ楽しそうだな」
 背中に感じる温もりを、僕は高校生になっても覚えているのだろうか。
 ここを通った時とか、ああこいつとそんな事話したっけなと、懐かしんで感傷的になったりとか、するのだろうか。
 どちらにしても、今この時を大切にしよう。もう、返って来ない時間なのだから。
「ちなみに、なんて高校なの?」
「雛白(ひなしろ)高校」
「ふうん? 分かんないや」
 止めた車輪を再び動かす。すると、緩やかで温かな風が吹いていた。春に向けての風。桜を揺らす風。
 ひらひらと舞い落ちるのは、そんな桃色の花びら。
 僕らは車道を走って、コンビニの角を曲がる。二十四時間営業なのに人はいない。けどおでんののれんは新春セールに変わっていた。帰りになんか見てこうかな。一応は卒業祝いみたいな感じでさ。
 線路を渡り、上り坂まで来る。二人乗りでは初めてになる。
 力を入れて立ち漕ぎをしていく。
 ふと目に入ったあの花屋は、絵画教室になっていた。花の装飾をまとった古い外観のままの教室。けど、これはこれで、味わいがある。雰囲気が良い。
 そうして、誰も居ない町に、車輪の音がキイキイ響き渡っていく。悲鳴みたいな車輪の音が淡々と明け方のこの町に。
 存在を示すかのように、鳴る。
「なんだか、世界に二人だけみたいだな」
 振り返らず僕の零した声に、ちょっと後ろから彼女の声が聞こえた。どこか楽しげな、そんな声。
「うん。二人だけの世界で、二人乗りしてる。なんだか不思議だね」
 坂の上から町を見下ろすと、ショッピングモールがあった。看板からは文字が消され、たくさんのブルーシートが下されている。
 駐車場には、工事中の立て看板。
 あそこも、なにかに変わっていくようだ。僕らが生活をするのに使っていた、あの家族で行った大きな場所は。
 水平線が優しい赤橙色に包み込まれるを見ながら、ペダルをさらに強く漕ぐ。その先にあるこの町の高い位置には、この街の出口がある。そこに着いたらもう本当に終わりを迎える。
 僕と彼女とだけの、二人の最終回になる。