青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 同じ誕生日で、同じ幼稚園で、同じ学校で、近所付き合いの、同じクラスの幼馴染。
 それはこれからもそのつもりで、変わる事のない事実で、残っていく過去で、忘れる事なんて有り得ない筈なのに。
 それなのに――なんで、無いんだ。
「…………きっと、迷っちゃったから、やっちゃいけない事をしたから、そっちからも忘れられちゃうのかな」
「そんなバカな事!」
「なにが起きても不思議じゃないよ……だってほら……ね」
 おもむろに、彼女は自分の足元にあった原稿用紙を取り出した。何回も書いては消してを繰り返した、くしゃくしゃになった原稿用紙。
 そこの、文末部分。書かれた自分の名前の場所は、滲んだ字だけがあった。
『三月七日 三年二組 二十七番――』
 何度もそこに書こうとした跡。黒く、ぐちゃぐちゃになってしまっているその文字。
 それは自分ですら、自分の名前も忘れてしまった事を表しているのだった。
「……書けないんだよ、わたし。日付もクラスも出席番号も書けるのに……いやもう、それすらも書けなくなっちゃったのかな。いずれにしろ、わたしはもうここに居られないの。ね? だから、アルバムは要らないんだよ」
「…………」
「せっかく持ってきてくれたのに、ごめんね」
 目を瞑って謝って、僕の手をそっと離す。
 広げられた卒業アルバムは、僕の涙で濡れてしまっている。
 ぽっかりと空いた、一つの写真のところに。
「…………そっか。なら、認めるしかないな」
 無理やり声を絞りだした。
そう言うしかなかったから。
もう、そうしないといけなかったから。
「……うん」
「でもな、この文集はさ、ちゃんと書いてやれよ。先生、向こうで待ってるって言ってたから」
 僕が力を込めて持っていた為に、丸まってしまった預けられた冊子を、渡す。
 彼女は、しばらくそれを見つめてはパラパラとページとめくり、頬を緩めてそこに挟んであった一枚の花びらを手に取った。
「……知ってるか? 青色の桜はおまじないのせいで、普通のヤツには見えないんだ。おまじないが掛かっていない僕らだけ。で、その木には宇宙を揺るがすものすごい宝物が眠っているから、地球では存在しないものとして認識されてる……」
「……さくら、ね」
 ポツリと呟いて、彼女はその花びらを制服の胸ポケットに入れた。ブレザーのちょうど、造花を付ける辺りに、その青色を。