「そんなに食べていいのか? カツ丼食えなくなるぞ! って言った」
「あー、てっきり兵悟さんの呪文シリーズかと思ったよ」
ねえよ。そんなシリーズ
「これはおやつだから問題ないよ。そもそもカツさんはもう少し空けてから食べる予定」
「おやつにおでんを食べる女子って初めて聞いたわ」
「そうかな。おでんってお菓子よりカロリー低いし、安くていっぱい食べれるから割とアリだと思うけどな」
 最後であろう白滝を噛みしめつつ、割り箸を振りながらうんうんと頷く夢前。容器から薄っすら上がる湯気は、どこか物悲しい。
「でも女子力は」
「知らぬい」
「いい加減な奴だ」
 とりあえず持ってきたミルクティーを渡す。けど、おでん汁を堪能し始めて全く気付いてない様子。
 右の頬に当ててやる。顔を顰める。
「やめんしゃい」
 口を「む」の形にしながら、ミルクティーを受け取ってふぅと息を漏らし、こちらを睨んできた。
 全然怖なくない。うさぎだもの。
「わたしの至福の瞬間を邪魔したな兵悟さん」
「ごめんて。怒るなって」
「……ふふ、仕返しだっ!」
 ツチノコ見つけた時みたいな急なテンション(ツチノコシリーズと名付けた。なんかすごそう)で叫び、ぐいっと立ち上がりながら、残りのおでんの汁を一気に口へ入れようとする夢前。
 そして一言。
「うわ、熱っ!」
 一人で盛り上がり始めた。
 たぶん、こいつ的には汁を飲み干してビシッと決めようとでもしたんだろう。
 しかし何が決まるのだろう。テンションで生き過ぎだ。
「天然を抑えろ」
「うう、おでん帽子作戦失敗」
 ああ。
 どうやら、おでんの入ってた容器を僕の頭に被せるつもりだったらしい。
 何か地味に嫌だ。衛生的にも。見てくれ的にも。
「ゴミはゴミ箱へどうぞ夢さん」
「はい、どうもすいませんでした兵さん」
 入れ口から中のゴミが見え始めたそれに容器を押し込み、さっさと自転車の荷台に座る夢前は、例の座り方で僕を待つ。
 細い脚をのんびり揺らして、ちょっと前屈みになる。
 おお、尻のラインがなかなかどうして――
 黙っておこう。
「ねえねえ、これなに?」
 僕の持ってきた雑誌を身体を伸ばして手に取って、表紙のグラビアを眺める。水着を着たアイドルが何人か映っている、少し刺激強めのものである。
「あら。いきなり大人なページが」