そうやって、黙ったままの僕にこいつは何も言わない。言葉を待ってるんじゃない、分かってるからこそ言わないんだ。僕の手を握った手が震えてるのは、きっとそうなんだ。
ゆっくり深呼吸して、顔を上げる。ぐちゃぐちゃで不細工になっているであろう顔を、優しく身守るその瞳に向かって。
「……お父さんが、目が見えなくなった時にね、先生辞めようとしたの……授業出来ないからって。でも、学校の先生方はね、授業は代わりの先生にさせるから、もう少しここにいて下さいって言ったの。すごく信頼されてたみたい。生徒からも、先生からも」
久しぶりに話したからか、一瞬声がうまく出なかったみたいだが、すぐに僕の知ってる口調に戻る。とても聞き慣れた、いつもの彼女に。
「……わたし達の担当学年じゃなかったから、実際あんまり会わなかったけど、そんなすごい人なんだって思って……だからね、家族としてもそうだけど、もう少し居て欲しいって思った人の為にも、わたしはあの場所に行ってたんだと思うの……だからね……線路に落ちちゃった時、分からなくなっちゃって」
中学二年になる前、ちょうど今くらいの時期だっただろう。駅構内で人が落ちたと騒ぎがあったのは。
僕は人が群がる駅前を通り掛かった時、あの小さな駅は大混雑を起こしていた。
何が起きたのかと、人混みを掻き分けた先に、知ってる背中があった。
呆然と、ただ立ちすくむ一人の幼馴染の姿、そしてその手に握られた父親のバッグと杖。
言葉を掛けても、手を引いても、何も反応しなくてされるがままで、閉じこもってしまった。
それ程に大きかった存在だった。とてつもなく、大切な人で、大切な家族だった。
「…………ありがとうね、部活まで辞めて、ここに来てくれて……ごめんね、勝手に向こうに行こうとして」
「ゆめさ……!」
その時、彼女の名前を呼ぼうとして、口がそれ以上動けない事に戦慄した。
やばい。出てこない。なんでここで。なんで出てこなくなるんだ。僕は"向こう"の人間じゃない。なのになんで……。
「あああ……ああ、くそっ、お前の事」
「……そっか。そろそろ、わたしも……行かないといけないのかもね」
「そ、そんな……」
僕は卒業アルバムの生徒写真のページを開く。こいつの名前を、こいつの事が載ってる筈の場所を、ひたすらに探して――。
「……無い、のか」
ゆっくり深呼吸して、顔を上げる。ぐちゃぐちゃで不細工になっているであろう顔を、優しく身守るその瞳に向かって。
「……お父さんが、目が見えなくなった時にね、先生辞めようとしたの……授業出来ないからって。でも、学校の先生方はね、授業は代わりの先生にさせるから、もう少しここにいて下さいって言ったの。すごく信頼されてたみたい。生徒からも、先生からも」
久しぶりに話したからか、一瞬声がうまく出なかったみたいだが、すぐに僕の知ってる口調に戻る。とても聞き慣れた、いつもの彼女に。
「……わたし達の担当学年じゃなかったから、実際あんまり会わなかったけど、そんなすごい人なんだって思って……だからね、家族としてもそうだけど、もう少し居て欲しいって思った人の為にも、わたしはあの場所に行ってたんだと思うの……だからね……線路に落ちちゃった時、分からなくなっちゃって」
中学二年になる前、ちょうど今くらいの時期だっただろう。駅構内で人が落ちたと騒ぎがあったのは。
僕は人が群がる駅前を通り掛かった時、あの小さな駅は大混雑を起こしていた。
何が起きたのかと、人混みを掻き分けた先に、知ってる背中があった。
呆然と、ただ立ちすくむ一人の幼馴染の姿、そしてその手に握られた父親のバッグと杖。
言葉を掛けても、手を引いても、何も反応しなくてされるがままで、閉じこもってしまった。
それ程に大きかった存在だった。とてつもなく、大切な人で、大切な家族だった。
「…………ありがとうね、部活まで辞めて、ここに来てくれて……ごめんね、勝手に向こうに行こうとして」
「ゆめさ……!」
その時、彼女の名前を呼ぼうとして、口がそれ以上動けない事に戦慄した。
やばい。出てこない。なんでここで。なんで出てこなくなるんだ。僕は"向こう"の人間じゃない。なのになんで……。
「あああ……ああ、くそっ、お前の事」
「……そっか。そろそろ、わたしも……行かないといけないのかもね」
「そ、そんな……」
僕は卒業アルバムの生徒写真のページを開く。こいつの名前を、こいつの事が載ってる筈の場所を、ひたすらに探して――。
「……無い、のか」
