青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 表札の文字がかすれて読めなくなっている。きっと何年も変えてないんだろう。ポストに入れられた新聞もかなり溜まっている。
 インターホンが無いので、僕は軽くドアをノックした。回数にて三回くらい。コツコツコツと叩いているのに、音の鳴りは悪く突っついているみたいだった。
「……出ねえな」
 体をひょいと出して、部屋の明かりを確認してみるが、暗いままだ。もう寝てしまっている……ともここに来て考えられないし、単純に開けたくないのか。
「お」
 すると、ガチャっと鍵が開く音が聞こえた。一応はノックに気付いていたらしい。
 僕はノブゆっくり引いてドアを開けた。暗く狭い玄関に、学校の制服の後ろ姿があって、顔は下を向いている。
「寝てたか?」
「……」
「入るぞ」
 そのまま奥へ歩いていってしまったので、僕も靴を脱いで中に入る。二人分もない幅の廊下には、まとめられたゴミが置いてある。
「レンジ、借りるぜ」
 言いながら、部屋の手前に置かれた電子レンジを開けて、ここに来る時に持ってきたコンビニのおでんを出す。具材はすっかり冷めてしまっていて、急いで来たものだからちょっと汁が溢れている。
 じわじわと思い出していくこの感覚。
 いつも通りの、僕が学校帰りにコンビニのおでんを買ってきて、わざわざレンジで温めるこの光景。
 そう、僕らはこうして過ごしていたんだ。
 今日まで同じように。
「ミルクティーオアレモンティー」
「…………ミルクティー」
「ん」
 大して言葉も交わさず、大して感情も表さず、特筆するような事もせず、けどそれなりの心地良さを覚えて、居心地の良さを覚えて……こいつがどんなになろうと、僕はずっと同じ気持ちでいて、過ごしていた。
 それはそれで、悪い日々じゃなかった。
「なんか食い物ある? 腹減りすぎて ちくわぶじゃ足りん」
「…………作る?」
「お、恒例のアレ?」
「……今日は唐揚げ丼とか」
「なにそれうまそう」
 それはたぶん、こいつも同じで、確かに昔と変わっていってしまったけど、今でも好きでいるのは本当で、僕もそうで。
「そういや今日お前の先生に会ったぜ。僕は今回で三回目くらいか?」
「…………」
「近々準備室行ってやれよ。たぶん、人来なくて寂しいだろうし」
「…………うん」
「あ、おでん温まった」
 忘れたくないくらい大切な時間な訳であって。
 今も。
 これからも。