青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 何度も文字を書いてはそれを消し、また書いてはそれを消しを繰り返した痕跡があるもの。
 真っ黒になるまで文字が書かれてぐちゃぐちゃになって、滲んでしまっているもの。
 どれもこれも、なんの原稿かは明らかだった。
「……まだ書いてんのかな、あいつは」
 机の中を覗いてみる。
 丁寧に入れられた、卒業証書とそれら。おそらくは、誰かがここに入れてそのままになっているのだ。
 ……ここに来てもなお、あいつは持ち帰れないでいるのだろう。
 本当は全部忘れて過去にすがりついていたいのに、昔の楽しかった思い出に浸っていたいのに、ずっとやり残していた宿題のように引っかかるそれから逃げ出せず、結局こうして終わらせられないのだ。
 でも、もう終わらせないといけない。
 あの人の――紙芝居のおじさんの、自分の父親の、先生に会いに行ったあいつの為に、宿題を終わらせないといけない。

 もう迷ってなんて、いられないんだ。

「いやだな」

 机の中の一式を、ずっと背負ってたバックに入れる。

「終わったら」

 電気も消さないまま、教室を飛び出して。

「お前、行っちまうんだろ」

 廊下に響く自分の足音が、気持ち悪くて。

「向こう側に」

 階段を下りて玄関まで一気に降りて。

「ここまでさせといて」

 夜空の下に飛び出して。

走り抜けて。

「だから覚めて欲しくなかったんだよ」

 校門に置いた自転車にまたがって。

ペダルを回して。

「だからあの場所が怖かったんだよ」

 風を切って――

「だから忘れたかったんだよ!」

 あいつの居る場所へ――

「だけど……逃げんじゃねぇ……!」

 本当の帰る場所に。

「忘れるんじゃねえ……」



 響き渡った声は、どうしようもなく震えている。

 6

 学校から公園の間には、いわゆる住宅街があって、そこに並ぶ新築ばかりの家に不釣り合いな古くてボロボロになったアパートが建っている。
 二階建ての、住んでる人間なんているのか分からないような、酷く廃れた外観の小さなアパート。
 そこが、僕とあいつが住む本来の場所である。
『長谷川ハイツ』
 どこにでもありそうな名前だ。
「……」
 切れかけの街灯に照らされた薄汚れた壁のシミが、なんとなく人の顔に見えるのにえらく懐かしさを覚えつつ、僕は102号室の前に立つ。