青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 だから、「忘れた」なんて一言で片付けて気付いていなかったんだけど、既にここは無くなっていたのだ。

 そう、公園自体とっくに取り壊されていたのだ――。

「……行くか」
 またがった自転車が、なんだか小さく感じた。

 5

 夜道に自転車の小さなライトが鈍い音を立て前を照らす光景は、あまり長く続いて欲しいものではない。
 しかも灯りどころか、周りの建物が無いというのは、怖いと言うより何かが起こりそうでどうしようもなく嫌なのである。
 ゆらりと風が吹くのですら、知らない世界へ運ばれてしまいそうで、おもわずペダルを漕ぐ足が速くなる。
「はあ、やっとか」
 ようやく目先のライトが建物を照らしたのを確認して、僕は息を漏らした。
 何も無い平地にそびえる、学校。
 今日は一体、何回行き来してるのだろう。本当、登下校してる気分だな。
 学校前まで着くと、僕は歩道に自転車を置いて、閉められた校門を見据えた。
「市立葵中学校」
 僕と同じ高さくらいの位置に、そんな堅苦しい文字が刻まれている。
 姿勢良く立てられた大きな看板には「第三十七回卒業証書授与式」。
 日付と同じような数字だ。
 校門を飛び越え、構内へと入って行く。夜の学校は言わずもがな不気味だ。せいぜい電気の点いている部屋があったら確認する程度にしよう。さすがに、この暗さで一人でいるとは思えないしな。
 歩きながらひとまず校舎をぐるりと見渡し、人の気配を探す。
 特に気になるものはない。そのまま校庭の方へと足を向けて、上の階から視線を落として行く。
 すると、広がる暗い空間の中、唯一わずかな光が灯っている場所があった。
 三階の教室。端から二番目の位置にある三年二組の教室。
 僕らのクラス。
「世話焼けんなぁ……ったく」
 夜空に向かって言葉をこぼして、生徒玄関へと急いでいく。開いたままの校舎への入り口は、なんだかさっさと入れと言われてるみたいで、普通なら行きたくない筈なのにすでに足は動いていた。
 いざなわれるかのように。

 廊下の電気を点けて、階段を登っていく内に、懐かしさにも似ている妙な物悲しさがこみ上げてきた。
 この中学校であった事。本来あいつが通う筈だったこの場所で、僕は僕なりの学生生活を送って、今日この日を迎えている。