青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 だって――ここにあるのは看板が取られた服屋、看板だけの本屋、商品が無くなった家電屋と、立ち入り禁止と書かれた映画館。
 何を示しているのか、何が起きているのか、そんなのは改めなくても分かってしまうだ。
 僕はポツンと取り残されていた晴れ着をまとったマネキンに、最後の言葉を掛けてやる。
「またどこかで会おうな」
 出口の自動ドアは、壊れて開いたままだった。

 4

 公園の木々は、月夜に照らされて幾分美しく思えた。
 しかし、こんなに背が低かっただろうか。
 さっきあの男とここに来た時は見上げる高さだったのに、今はもっと簡単に届きそうな高さだ。
 小学生でも、割とすいすい登れるくらいだろう。
 そこでふと、あの大きな木の根元に置いた筈だったタイムカプセル、基いあの缶箱が無い事に気づいた。
 あいつがどこかへ持っていたのだろうか。いや、そんな事したところで一体なんの意味が……。
 改めて公園内を歩きまわって僕は見てみる。
 ジャングルジムに砂場、トンネルや鉄棒、小さい頃から何一つ変わってない遊具。
 ……どこか不自然だ。こんなにも錆び付いていたであろうか。
 確かに、ずっとここにあるのだから古いのは当たり前だが、あの頃の感じとは程遠く、明らかに変だ。
 高くそびえるジャングルジムの下に立って手を添えてみる。塗装が剥がれ、中の金属があらわになっているのが分かった。固く冷たい感覚がする。
 続けて長い筒の形をしたトンネルの前に着く。屈んで、広がる暗い空洞を覗き込む。
「なんだ、この紙」
 ちょうどトンネルに入ってすぐのところ、薄汚れた一枚の紙が雑に貼ってあった。
 書いてある文字を間近で見ようと顔を近づけてる。暗くて明朝体の形を追うのに時間がかかったがようやく分かった。
「……取り壊し注意。か」
 書いてあった事が分かった瞬間、何かが違うという、ふつふつと浮かび上がる違和感の正体が理解出来た。
 僕は戻ろうとしている。
 夢から覚めようとしている。
 再び、背の高い木の下へと戻って顔を上げる。改めて見れば上の方の枝が切られていたのが分かった。影で見えなかったが、後ろ側の枝も人工的に折られている。
 しかも蕾をつけたまま。
「切り落とす為の下準備か……」
 僕自身、そもそもこの公園の記憶なんて紙芝居を見に来てた時のモノだ。