夕焼けを見ていると、たまにこういう時がある。ぼーっとしてしまうような、意識を持って行かれるような、夢心地な感覚。
 それはきっと、この街の夕焼けだからだろう。
「すまんのう」
「ええんやでー」
 駐輪場に入り、自転車を停める。先に降りた夢前の後を僕も追って、コンビニに入る。
 すると、入店音と共にいい匂いがした。
 壁には大きくおでんセールの張り紙。
 そう、匂いの正体はおでんだ。
 夢前は他には目もくれず、レジ前のおでんを嬉しそうに眺めている。
 すげえメスの顔をしていた。僕にはやらない顔だ。
「因みにこれは女子力上がる食べ物なのか」
「さあー、知らんですなあ」
 どうでもよさそうだ。さっきの話はなんだったんだろう。
「いやーいいっすねー。学校行く前に具を入れておいたのが効いたねー。ふふふ」
 そそくさと容器に汁と大根などの具を移して行く姿は、もう見慣れたものだ。
 夢前はしょっちゅうここのおでんを食べに来ている。
 具材が無けりゃいつの間に補充して、これまた美味い具合にダシの加減や暖める時間を調整したりと、おでんを美味しくするのにぬかりない。
 将来こいつは、家庭的な女になるのかも。
「しかし、そうも毎日のようにおでんって飽きないのかよ」
「いやはや奥が深いんだよ、おでんは。兵悟さんも一緒におでん道極めようよ」
 何だよその道。
「たまに食べるならいいけれど、ずっとってのは何だって飽きるものだぞ」
「わたしは飽きないよ。この先もずっと好き」
「……ああ、惚れてんのか」
「うん。おでんにベタ惚れ。結婚しようかな」
 そう言って幸せそうに容器と箸を持って外に向かってしまう夢前。僕はお気に入りのグラビア雑誌と冷蔵庫に並んでるミルクティーを取って、後を追う。
「ねー、いる? ちくわぶ好きだったよね」
 ちょこんと駐車用の石に腰掛けた夢前が隣に手で招く。何だか飼い主においでおいでされてる犬みたいだ。
「ふーふーしてからくれ」
「えー、自分でしなさいよー」
 自転車のカゴに雑誌を入れ、夢前の隣に腰かける。何だかんだ言いつつちゃんとふーふーしてた。そういうとこ好き。
「はい」
 そんでちくわぶうめぇ。
「ほんなにかばていいなかつのんかべべべぼ!」
「え、なんて?」
 ようやく飲み込めた。熱いからめっちゃハフハフした。