青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 白色のシンプルなカバーをしたそれは、あいつの使っているスマホだ。
 でも、電波という概念が無いこの街に、ネットもメールも電話も使えはしない。
 ただ写真を撮るだけの、止まった時間を確かめるだけの、小さな電化製品でしかないのだ。
 そして、電源ボタンを押しても、十六時三十一分の文字を表すだけで、パスワードの画面になってしまう。
 仮にパスワードが無くて、中身を見れたとしても、残ってるのはこの街での僕らの思い出ばかりだろう。
 忘れたくない思い出を、忘れないようにと、過去にすがってシャッターを切った記録しかないのだろう。
 違う。今必要なのはそんなもんじゃないんだ。
 僕はバッグを戻して隣にあるクローゼットを開けた。
 制服が掛かってなかった。一応は着替えて学校に来ようとしたのだろうか。にしても、どこにいるかこれじゃまるで分からない。
「一応パークにでも行ってみっか」
 乱暴にクローゼットの扉を閉めて早歩きでスポーツパークを目指す。
 本屋を抜けて、映画館を横切って、服屋を通って、フードコートを横目に、食品売り場を越えていって。
 そこに置かれた散らかした物たちは、全部だしっぱしでぐちゃぐちゃで綺麗には見えなかったけれど、僕らがここに居た証明が確かに目で見えて、ああここでこうやってあんな事を言って二人でただ笑っては一緒に過ごして、なんていうそんな記憶が、そんな思い出が、消える事なく、ちゃんとあった。
 ここに居た事。
 ここに存在していたという事。
 誰かの夢の中みたいな非現実的な世界で、どう見たって本来の町じゃなくたって、僕はここに居たんだ。あいつと居たんだ。
 足を進めるたび、思い浮かぶここでの事。
 このショッピングモールの事。
 好きなものを着て、好きなものを観て、好きなものを読んで、好きなものを食べて、好きなものを持ち込んで。
 まるで、僕らの城みたいで。
 好きなものしかない世界に生きてるようで。
 好きなものだけ選べる世界にいるみたいで。
 終わりを迎えないといけないけど、とても温かい思い出であって。
 忘れたくなくて――。
「……着いた」
 そうやって着いた口を開いているみたいな、パークへの入り口の前に僕は立つ。
けど、ふうと深呼吸少しして、すぐに中へと踏み入れる。