青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 たぶん、僕らがここで食材なんかを運ぶ時に使用していた物なのだろう。
 買い物の時に、頼まれた訳でもないのにいつもカートを押していたから、その名残りみたいなのがあるのかもな。
 家族全員で買い物してた時の名残りが。
 今はもう、しなくなってしまった。
 二階へ着く。相変わらずだだっ広い家具屋がすぐ目の前に広がる。
 寝具コーナーを抜けて、雑把に生活用品を集めただけの簡易自宅に僕は腰を下ろす。
「いねぇか。どこ行ったんだ」
 二つのベッド。いつもなら、物が少ないくせに散らかってる方が僕ので、物が多いくせに片付いている方があいつのという組み合わせ。
 互いに物理的に距離を空けてはいるけれど、目に入る位置にはある寝床。
 干渉し合う事なんてしないが、居ないと不安で仕方ない関係。
 僕らはそういう仲だ。
 だから……だからこそ、僕はあいつの寝床の前へと立った。
 壁にも仕切られてないし、鍵も閉まってないのに、なにか用事がなければ近づく事を避けていたあいつの場所。
 おそらく、勝手に入ったって本人は何も言わないだろう。
 それ程に僕を信用しているとかそんな話ではなく、隠す物なんて、見られて困る物なんて無いというだけの理由だ。
 本当に見られたくない物は、きっともっと大事なところにしまってあるものなのだ。
 ここは、そんな物を置く大事なところじゃない。
「だから、こんなに散らかしてるのか」
 開いたままの雑誌、食べかけのお菓子、崩れそうな漫画の塔。
 しまう場所や捨てる場所があるにも関わらず、そのままなのは面倒だからとかいう問題じゃなくて、あいつ自身のルールやマナーなんてものが、必要なくなったからだろうか。
 誰かの目を気にして生きる必要なんてないと思ったからなのだろうか。
 あの時みたいに。
「原稿用紙……あいつのか」
 目に止まった、ベッドの横にある机に置き去りにされたくしゃくしゃの原稿用紙。
 きっと、ずっとなにか書いては消して、悩んで書いては消してを繰り返していたのだろう用紙には消し跡が無数に残っている。
 消せない、傷跡のように。
 僕は机に掛かっているスクールバッグを手に取って、中を開ける。
 いつか見た光景と同じ、使いかけの制汗スプレーが何本も入っていて、申し訳程度に筆記用具やノートがあった。
 そして、なにやら薄く光る物もある。
「携帯までそのままか」