青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 無い。さっきまで僕が立っていた駅がぽっかりと無くなっていた。
 ……いや、駅だけじゃない。街の建物全体がまるで切り取ったかのように消えている。
 あるのは数件。どれも忘れ去られたかのようにそこに建っていて、そのどれもが僕の知っている物だった。
「はは……今度は僕の番ってか。やれやれ」
 線路沿い適当に停めた自転車。
 昔、ショッピングモールで買ってもらった、どこにでもある普通のママチャリ。
 荷台部分をわざわざ上に曲げて、二人乗りしやすいようにしてあって、いつもこいつに乗って学校に行っていた。
 そう、あいつと二人乗りする為に。
「……さて、と」
 ふわっと、冷たい夜風が吹いては、周りに生えてる草木をざわつかせ、時の流れを感じさせる。
 夜になったのだ。この冷たさも、止まっていた時が、少しだけど動き出した事を伝えている。
 自転車のハンドルを持ち、またがってみる。
 カゴの中にはコンビニの袋。もちろん何も入ってない。
 そこにずっと手に持ってシワができ始めた冊子を放り込みペダルを漕ぐ。キイキイと規則的に甲高い悲鳴を上げながら、僕は緩やかな坂道を下りていく。
 どこに向かえばいいか。そんなの考えるまでもない。
「今日は三月七日だった」というだけの話だ。
 三月七日。僕らが学校を卒業する日。
 その日にたまたま、ぶつかったというだけの、話。
「腹、減ったな」
 大きく息を吐きながら、自分の腹に手を当ててみる。
 今日一日何も食べてなかったかのような状態だ。早く適当な物を腹に入れておきたい。
 あんまガッツリしてなくて、さっさと食べれる程度の物を。

「こちらこそありがとう、先生……」

 ◇

 夜のショッピングモールというのは何故ここまで不気味で寂しいのだろう。
 大きさに比例しないで、人が誰も居ないだけにしたって、夜はまるで、変な世界に迷い込んでしまったかのような感覚がする。
「あいつ、いんのかな」
 電気はついている筈なのに、襲ってくる孤独感は恐怖心にも似ている。
 見慣れている光景。
 それは、いつからこんなに怖くなったのだろう。
 敢えて大きく足音を立て、僕は二階のあの場所へと進んでいく。
 自分たちが作った家へと。住んでいた場所へと。
「……」
 エスカレーターの前、ショッピングカートが一つだけ放りっぱなしになっている。