青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

「いいチョイスだ」

 ◇

 そのまま上り坂を越えたところで、あの不愉快な突き刺さる寒気を再び感じた。
 ピリピリと全身を走るような痛みを帯びた寒さ。
 線路沿いのネコジャラシの海に佇む暗い屋根と入り口。
 別の世界にいざなわれてしまうような、仰々しい雰囲気を漂わせるそこは、この街の駅だ。
「怖いかい? あの駅は」
 男はあいも変わらない口調で笑みを浮かべた。まるで見えもしない幽霊に怯える子供をあやすように。
「怖い、というより。嫌です」
「そうか。まあ、そうだよね。駅は言わば命への入り口だ。たくさんの命を運ぶ電車。それに乗る為のところだからね。はは…………そして消える命もそこにはあるんだろう」
 消える命。
 そうだ。どんな形でも、どんな経緯があっても、電車は人の命を終わらせる事が出来る。
 そして、通常ならば慈しむ場所でなければならないのに、募るのは個々人の都合。人の命が最も消えて、最も悲しまれない場所。それが駅なのだ。
 男は大きく息を吐いて、僕に前に進むように促す。
「体育大学の時にね、運送のアルバイトをした事があるんだ。ボクは運転手じゃなくて、あくまで積荷を運ぶだけの役目だったけどね。で、いざ目的地に着くってところで、そのダンプカーは踏切に引っかかってしまってね。ボクは早めに逃げれたから怪我はなかったけど、運転手の方が少し手間取ってそのまま電車に……。呆気ないくらい一瞬だったよ。その後たくさんの人に影響が出たんだ。積荷やダンプカーの瓦礫がすごい量だったし、通勤通学の人たちともろに時間が被った。運転見合わせは、一日中続いた」
 いつくらいの話なのだろう。忘れた筈の昔話を、いや普通に忘れてしまっていてもおかしくない頃の話を、男は淡々と続けた。
「ボクは呆然と踏切の近くで立ち尽くしてた。そしたら、溢れた駅の人間から『ふざけるな』と怒号が飛んだ。そう、心配の声なんて一つもなかった。駅員さんでさえ、舌打ちを繰り返していたからね。すごく、嫌な思い出だ」
「……」