青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

「中学校に入って二年目くらいかな、あの子は学校に行きたがらなくなった。色々あったからね。性格も段々と変わっていって、ずいぶんと大人しくなってしまったんだ。その辺りはキミの方が詳しそうだね。ボクはただ、娘を学校に来させるだけの存在になっていたよ」
「…………」
「あの時はごめんね。ボク、先に向こうに行っちゃったから、娘なりに辛かったんだよ。だからこの街に来ちゃったんだ。同じ場所へ行く為に……あの子、すっごく優しい子だからさ、会いに来てくれたんだよ……お母さんよりも先に」
 僕は何も言葉が思いつかなくて唇を噛んで足を前に出した。
 目的の駅へと、隣の自転車とともに進みながら、本来の姿へ変わり出した街並みを、目に映しながら。
 思い出したくないような、本当の話を聞きながら。
「でもさ、やっぱりお母さんや大切な人たちにお別れは言わないとダメだよ。それが出来なかったから、迷っちゃうんだ。キミまで巻きこんでね。そこは唯一、ちゃんと知って欲しかったな…………まあでも、もう準備が出来たみたいだし、いいのかなこれで」
「僕は……」
 受け入れたくなくて、あいつが望んだ今を僕はずっと先延ばしにしていた。
 それも含め、僕もここに来てしまったんだ。決して巻き込まれた訳じゃない。
 だから、この人も、ここに居るんだろう。唯一の未練があったのだから。
「学校、ありがとうね」
「え?」
 男は父親の優しい表情を浮かべた。
「……この街でキミ達はちゃんと勉強して、ちゃんと毎日を過ごした。テストだって部活だって学校行事だって何一つ無かっただろうけど、何かを学んでは生きて、一緒の時間を大切に生きたんだ。それを味わって欲しかった」
 声は、震えている。
「青春を、娘に送らせてくれてありがとう」

 本来出来なかった事を、させてやれなかった日々を、男は僕に託して、あいつにひとり立ちしてもらう為に先に電車に乗った。
 最初に会った時にストップウォッチを渡したのは、直ぐに向こうに渡らせないで、学校に通ってほしかった為だったのだ。

 ――じゃあ、何故あいつは学校に行きたがらなくなってしまったのか。
 ――何故閉じこもってしまったのか。

 それは、全てあの駅に答えがあって、ちゃんと向き合わないと行けない事があって、僕にとっても、あいつにとっても、最後の思い出に当たる。