青春トワイライトと忘れ猫のあくび -Farewell Dear DeadMINE-

 僕の語られる言葉に、貸した肩を叩いて男は頷いた。
「ああ、懐かしいな。"オクトパシ"は公園の向こうに生えてたザクロの木が元なんだよ。ザクロはね、タコみたいな形をしているから、物語が終わった後見つけてくれたら面白いなって思ってね」
「そんな意図があったんですか」
 そう言われて、公園の外側にある木を探してみる……が、そもそも木、植物すら生えてなかった。
 きっと、もう無くなってしまったのだ。
 確実に、忘れたくなかった街から離れていっているからこそ、本来の町を思い出そうとしている。それが証明されているのだ。
「はは……ボクにはね、目が見えなくなったからこそ見えた世界があったんだ。まるで、おまじないがとけたみたいにね。それを元々芸術系の教師だった妻に伝えたら、せっかくだし、私が絵を描くから、紙芝居でもやらないか。って言ってくれた。目が見えなくても物語は話せるし、紙芝居なら絵を替えていくだけだから、順番さえ間違わなきゃいい」
「じゃあ、あのお面も?」
 好きだった"レッドマスク"のお面。僕らがこの公園の木にタイムカプセルとして置いた当時の宝物。
 それもこれも、全部この人が僕らにくれたモノだ。
「ああ、お面はね、ボクが作ったんだ。張子自体、いらない紙をまとめて作るから手軽に始められるし、形くらいなら大体はできる。細かいところは妻に手伝ってもらって、塗装もなるべくボクがやるようにした。赤色は見やすかったからね。"レッドマスク"は自信作で初めての作品さ……まあ、目がまだうっすら見えた頃のね」
「それって」
 体育準備室にあった作りかけの張子のお面。それはその当時の物だった。そして、目が見えなくなってからも同じくあの場で作っていたのなら、あいつもあそこにいた。
 あいつが手伝っていた。
 自分が出来る事をしていたんだ。
 自分にしか出来ない事を。
 再び歩こうとする男に肩を貸して、僕らは公園の出口へ向かう。どうやらここから離れる事にしたようだった。
「今までの話は、全部あいつとの話という事ですか。体育準備室で一緒にいた時の」
 声を絞り出したかのようなか細くなった僕の声に、男はゆっくりと頷いて目を閉じた。