「……それはそれでつまんなそうだ」
 すると「あ!」と、いきなり立ち上がり、何か閃いたご様子の夢前さん。
 いつも思うが、ツチノコでも発見したみたいなテンションになるの、急過ぎる。
「『景品を落とす』の『落とす』って『恋に落とす』とちゃんと掛かってたんだね。すごい」
 ……何言ってんのお前。

 その後、他の台を夢前に挑戦させてみたが、やはり悪戦苦闘で、恐らく十分も経たずギブアップしてしまった。
 ガラス越しのアームとにらめっこしている姿はなかなかに面白かったし、少しでも景品が持ち上がれば体ごと動かして一喜一憂してるのも笑えたので、こちらとしては満足だったのだが、本人はもうお疲れだったらしい。
 仕方ない。また今度、適当な時を見つけてやってみよう。
 僕は僕で、あいつにもっとハマって欲しいと思っている。
 そしたら、二人だけの街で、二人の楽しめる時間が回数が増える。
 少しでもその瞬間は多い方がいい。
 
 いつ、現状が変わるかだなんて、分からないのだ。
 なら、今この状況を楽しんでおきたい。
 何もない内に、出来る事をしたい。
 
 時間と共に、この街を忘れる前に。
 消えてしまう前に。
 
 1

 ゲーセン帰り、夢前がコンビニに寄りたいと言うので、僕らは公園近くにあるいつもの場所に向かっていた。
 その辺りは高い建物が少なく妙に懐かしい雰囲気で、いつまで居たくなってしまう居心地が良い場所だ。
 この街自体、懐かしい気持ちにさせるモノが多いが、特にと言ってもいいだろう、非常にノスタルジックな気分になる。
「……」
 空を見上げてみれば、茜色の空。
 どこまでも続く綺麗で見惚れてしまう空。
 この街の夕焼けは、不思議といつまでも見ていられる。
 昔に想いを馳せて泣きたくなったり、悩んでいた事がどうでもよくなったり、何だか勝手に憂鬱な気持ちになってしまったりと、人によって様々な気持ちを与えてくれる夕焼けは、この街だとただ僕らを包み込むだけの『優しい存在』だ。
 いつまでも見ていられる。何も考えなくいいと、抱き締められている気持ちになる。
 
 ――だから、この街の夕焼けはずっと沈まない。
 
「ねえ、通り過ぎてるよ」
 向っていた場所をわずかに行き過ぎていたようで、ご指摘の声が飛んだ。
 慌てて反転して折り返す。小さい段差に乗っかってガタンと音を立てる