「――地球に咲く、たった一つの桜。それがこの青色の桜だ。この木は、宇宙をも変えてしまうほどの秘密の力があって、普通の人じゃ見えないようにおまじないがかけてある。見えるのは宇宙警察のボクと、まだおまじないが掛かってないキミたちだけだ。ボクがここに来たのは宇宙征服を目論む悪の親玉、将軍ゴーゴンがその宝を狙って地球に降り立ち、青色の桜を探し回ってるという報告を司令部から受けたからだ。地球の諸君、いいか、ヤツの手に渡ったら、地球はおろか、全宇宙の崩壊を招く。それは何としても避けたい。そこで、ここにいるキミたちへお願いだ――」

 少しかすれたその声には、ちゃんと聞き覚えがあって、そのセリフも、その話し方も、全部僕の知ってるモノだった。
 懐かしくて。
あったかくて。
心地良い。
 ああ、覚えてる覚えてる覚えてる。
 僕は今、あの頃と同じ場所にいる。
 ここにいる。
 忘れてない。
「……青色の桜なんて、この世には無いんだ。桜はみんな、桃色だからね。でもさ、されど娘は頑なに青色の桜があるだなんて言うんだ。たぶん、あの子には見えていたんだろうね。ちゃんと自分の目には映ったんだろうね。はは、本当はボクらが見れてなかっただけなんだ。『常識』とか『ルール』なんていうおまじないのせいで……そして、大きくなっていくうちに、娘も青色の桜が見えなくなったみたいだよ。おまじないにかかったんだね」
「見えなく、なった……か」
 あの頃の、何もかもがおとぎ話のワンシーンみたいな日々には、たくさんの不思議なモノがあって、たくさんの刺激があった。
 そう、現実には存在しなくたって、僕らには現実で目に見えていた。
 誰かに作られた"嘘"でも、僕らにはとってそれは『本当』だった。紛れもなく、毎日が忘れたくない事の連続だった。
 だから、あいつの――僕らの『蕾』がここにある。
 枯れないで、しぼんでしまっただけの思い出が、目の前にある。
 再び咲く事を、待っているだけの夢が。
「あの、"怪人オクトパシ"って覚えてますか。すごく印象に残ってるヤツなんです。怪光線でなんでも凍らせて、"レッドマスク"は大苦戦を強いられるんです。結局桜の木も凍らせられてしまうんですけど、宇宙警察の護衛が"オクトパシ"の八本の足を封じて、なんとかスキを見つけた"レッドマスク"が最後ヤツを倒すんです」