その言葉が何を言わんとしているのか、直ぐには分からなかった。
別れを告げに来た覚えなんて僕にはないのだし。
「ここに居るという事は、そういう事なんだろう? 大丈夫さ……電車に乗る時にはもう全部忘れてしまっているだろうから。キミの事だって、キミとの『思い出』だってね」
男は戸惑う僕の様子を見てはまくし立てるかのように言葉を放ち、わざとらしく微笑んだ後、隣の机の荷物を一瞥した。
その机も他と同様に花が置いてあるみたいだ。
「あの、あなたは」
「ボクかい? さぁ……名前なんてとうの昔に忘れたからね。もう覚えてないや。昔仲良かった奴も、育ててくれた親の事も、それこそキミみたいなここの生徒の事だって、ボクはもう分かんないだよ」
心底どうでもよくなってしまったかのような乾いた笑みと、諦めてしまったかのような表情に、僕は上手い言葉が出ないでいた。
とにかく関係ありそうな電車の事を訊いてみようと、僕は男の目を見る。
「……えと、電車って、この街の?」
すると、自分の短めの髪をひと撫でして男はこちらを見据えた。
「おや、知らなかったのかい。アレに乗ってボクらは旅立つんだよ。世の言う、あの世みたいな場所に」
「……あの世」
そうおどけた表情と共に笑みを浮かべてはどこか楽しげに話を進める。
なんだかやたら子供扱いされている気がして、僕は眉根をひそめた。
なんだろう、この感じ。
どこか知っているような、覚えがあるような感じ。
「はは。あの世って言葉に怖がらなくて大丈夫さ。この街に来たという時点で、あそこに行くんだ。いや、行く事しか出来ないのかな。いつしか自分の事すらも忘れてね」
頬杖をついて、自分の回答に満足した様子で何も言わずにこちらを伺う男は、スーツも相まって先生と話しているみたいだった。
この人の――この空気を、この雰囲気を、僕は知っている。
言動からするに、おそらく男は電車に乗ってこの街を出たのだろう。
……だが、ある理由で一旦戻って来た。
その理由は……今男の手元にあって、閉じられた職員室の机に入っていた、あの冊子。
僕が鍵を見つけて開けるまで入れなかった、だから男はずっとここが開くのを待っていたのだ。
そして、この街の出入りは電車のみ。
つまり男はあの時、僕と夢前の前に電車が現れた時、この街に戻って来た。
という事は――。
「あの」
別れを告げに来た覚えなんて僕にはないのだし。
「ここに居るという事は、そういう事なんだろう? 大丈夫さ……電車に乗る時にはもう全部忘れてしまっているだろうから。キミの事だって、キミとの『思い出』だってね」
男は戸惑う僕の様子を見てはまくし立てるかのように言葉を放ち、わざとらしく微笑んだ後、隣の机の荷物を一瞥した。
その机も他と同様に花が置いてあるみたいだ。
「あの、あなたは」
「ボクかい? さぁ……名前なんてとうの昔に忘れたからね。もう覚えてないや。昔仲良かった奴も、育ててくれた親の事も、それこそキミみたいなここの生徒の事だって、ボクはもう分かんないだよ」
心底どうでもよくなってしまったかのような乾いた笑みと、諦めてしまったかのような表情に、僕は上手い言葉が出ないでいた。
とにかく関係ありそうな電車の事を訊いてみようと、僕は男の目を見る。
「……えと、電車って、この街の?」
すると、自分の短めの髪をひと撫でして男はこちらを見据えた。
「おや、知らなかったのかい。アレに乗ってボクらは旅立つんだよ。世の言う、あの世みたいな場所に」
「……あの世」
そうおどけた表情と共に笑みを浮かべてはどこか楽しげに話を進める。
なんだかやたら子供扱いされている気がして、僕は眉根をひそめた。
なんだろう、この感じ。
どこか知っているような、覚えがあるような感じ。
「はは。あの世って言葉に怖がらなくて大丈夫さ。この街に来たという時点で、あそこに行くんだ。いや、行く事しか出来ないのかな。いつしか自分の事すらも忘れてね」
頬杖をついて、自分の回答に満足した様子で何も言わずにこちらを伺う男は、スーツも相まって先生と話しているみたいだった。
この人の――この空気を、この雰囲気を、僕は知っている。
言動からするに、おそらく男は電車に乗ってこの街を出たのだろう。
……だが、ある理由で一旦戻って来た。
その理由は……今男の手元にあって、閉じられた職員室の机に入っていた、あの冊子。
僕が鍵を見つけて開けるまで入れなかった、だから男はずっとここが開くのを待っていたのだ。
そして、この街の出入りは電車のみ。
つまり男はあの時、僕と夢前の前に電車が現れた時、この街に戻って来た。
という事は――。
「あの」