どうやら先程の体育準備室の物と同じように書類の束が並んでいて……しかし今度はちゃんと整えられたそれの上へと。
 僕は少し生暖かい空気が漂うその部屋の中へ足を進め、ポツンと置物のみたいになったマミを抱えようと、手を伸ばしてみる。
 今度は抵抗なく捕まると思いきや、またギリギリのところで隣の机にジャンプをされ、マミの足元にあった紙束が宙を舞った。
 床に着地するなりマミは、トコトコと逃げるように職員室から消えていく。さすがにもう追う気にならない。
「いいやもう」
 嘆息と共にそこの椅子に腰掛ける。
 ふと、周りを見渡す。
 どの机も、花や荷物が置いてある。
 青色の花。枯れる事なくひたすらに咲いていて、やっぱりどこか寂し気な、その花。
 そして贈り物のような包み紙をまとった荷物と、写真用のアルバム。
 どれもさっきまで人が居たみたいなままで、どこか『いつも』とは違う雰囲気がする。
 今までには無い、僕が見てこなかった世界。
 それが何を示すのか、明確には分からない。
 けど、気付き始めている。
 向き合わないといけない事に。
 忘れちゃいけなかった事に。
「やっぱり――」
 目に入った机上時計は十六時三十一分から動かない。
 グラウンドの時計と同じで、同じ時間のまま。
 止まったまま。
「お、誰か開けてくれたみたいだ。助かった助かった」
 すると出入り口の近く、いきなり男の声が聞こえたので、思わず振り返っていた。
 見るに、立っていたのは黒いスーツを着た、中年の男性。
 背は高くないが、若々しい印象のする見てくれは、いかにもスポーツマンという感じで、スーツよりもジャージの方が似合っているように思えた。
 男はなにやら安堵の表情を浮かべて、僕の座る机まで来ては机の中をおもむろに探し始める。
「しかし、娘は元気なのかな。ちゃんと宿題はやってくるかな……」
焦りながらようやく一つの冊子を見つけ出し、それをまじまじと見つめる男。
一体この人は何者なんだろう。
「ああ、あったあった。これだ。これをずっと忘れたよ。よかった見つかって」
「あの」
「ん?」
 僕の声に振り向いた男は手に持った冊子を机に置きつつ近くの椅子に腰を下ろした。
「やあ。キミも誰かに"いとまごい"しに来たのかい?」
「……?」
 いとまごい。