だから『夢』なんてあいまいなモノではない『現実』をしっかり見ていけるように、『現実』に変えていけるように、これからも生きたいです。
 いえ、生きなければ、いけません。
 改めて先生方、クラスのみんな、今までお世話になりました。
 また、わたしを支えてくれた母や、仲良くしてくれた友達はかけがえのない存在です。本当に感謝しています。
 そして、小さい頃からずっと一緒だった兵悟くん。
 
 大切な時間をありがとう。

 そして、卒業おめでとう。
 
 日付 三月七日(金)
 三年二組 二十七番――
 
「……あ、れ?」
 ペンを持つ手が止まってしまいました。
 最後の自分の名前を書こうとしても、なぜか書けません。

 思い出せないんです。
 自分というモノが。
 
 思い出したくないんです。
 自分だったモノが。
 
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「ミャア」
 マミが僕の目の前で大きな欠伸をして、首輪に繋がれたトランクの飾りを揺らした。
 不器用に閉められたそれは、揺れる度にカチカチと音が鳴り、中に何かが入っているのは明らかだ。
 僕はトランクに手を伸ばして開けようとしてみる。
 が、マミがピョンと避けるように違う場所へ飛んでしまうので、なかなか触る事すらも出来ない。
 こいつの行動は理解不能だ。
「……しかし、何も無かったな」
 机の中をひたすらに調べてみたが、結局めぼしいものは見つからず、僕はゆっくりと肩を落とす。
 その机の中は大雑把に物が入っており、何か手がかりになる物がある雰囲気を漂わせていたのだが、見つかったのは関係なさそうな書類と文房具、そしてなぜか板チョコ。
 どういう組み合わせだろう全く。
 改めて、開けた一番下の引き出しの中身を確認して、嘆息しつつ閉める。
「…………?」
 すると、ガッと鈍い音が鳴った。
 何か引っかかって、上手く閉まらなかったみたいだ。
 とりあえず屈んで、引っかかり部分を手探りしてみる。
 どうやら奥の方の物が突っかえているみたいだ。無理やり引っ張り出して様子をみる。
「ん」
 手には金属の冷たい感覚があった。目の前に出し、確認する。
「……職員室の鍵?」
 黄色いテープの上に『職員室』と明朝体で書かれた鍵。それが突っかかりの正体のようであった。
 ――なんでまたこんなところに。
 ひとまず立ち上がり、僕は準備室を出た。