――ビリヤード台。
 スポーツパーク内に設置された娯楽室と同じ物。
 他にも、ダーツ版やスロットゲームが置かれてる。
 なんでこんなとこにあるのだろうか。
「あ、おい」
 すると、マミがピョンと飛んで机に乗っかる。
 机の物が崩れるのはまずい。咄嗟に手が出た。
 が、落ちたのは紙切れ一枚だけで、特に大事故にはならなかったようだ。
 落ちたそれを拾い上げて机に戻そうとし、ちらりとその紙切れの内容が目に入る。

 未提出者:三年二組 夢前

「……未提出?」
 夢前。
 あいつの名前が書かれたそれは、どこか見覚えのある筆跡で、けれど全く書いた覚えの無い『未提出』の文字。
 一体さっきからなんなんだ。あの食材を見つけた時も、ここの入り口が分かった時も、なんで同じような感覚に苛まれるのだ。
 そして、何故それら全部を、マミがまるで僕に突きつけるかのように示すのだ。
「お前、ひょっとして」
「……ミャ」
 相変わらず興味無さそうに、気だるい表情のマミ。
 しかしその目は、僕に訴えかけるものがあった。
 強く。お前がやらなきゃいけないと。
「……」
 改めて準備室を眺める。ビリヤード台やダーツと他に、何かあるのではないかと、目を配らせて。
 この紙に記された事は、きっとマミが僕に伝えたい内容なのだろう。
 同時に、夢前があんな状態になってしまった要因もここにある。
 ある筈なんだ。
「ん、これって」
 机の下、大きい段ボール箱が置いてあるのが、目に留まる。
 箱は少し開いていて、何やら飾りのような装飾が飛び出している。
 近寄って箱を引っ張り、机の下から出す。
 ……軽い。大きさと重さが比例してないようだった。
 隙間に指を掛け、開けてみる。
 すると、そこには大量の反故紙や塗料、ニスなどの材料と作りかけの張子が置いてあった。
 
 ――そう、張子のお面がそこにあったのだ。
 
「ああ――」
 今の今までここの記憶はぽっかりと抜け落ちていたのは何故だろう。
 ここでした事。ここにいた事。
 僕と夢前がこの街に来る前の事。
 なんで、思い出せないんだろう。
 覚えていないといけないのに、どうして忘れようとしていたんだろう。
 ……僕は思い出したい。
 夢前がここでしていた事を。
 僕が何をここにしに来たのかを。
「……まだ終わってなかったのか」