僕も店内へと追いつく。店には、独特の花の香り。夢前は再度呼びかけていたが、その声に反応する音は聞こえない。
「なぁ、そこまであの猫にこだわらんでもよくないか? どうせ、ひょっと次の日には顔を出すと思うぞ」
「嫌だよ。逃しちゃうの、何か嫌」
「……頑固だな、お前も」
 店内の花の束を掻き分けて、夢前は隅々まで調べていく。僕も見た目、手伝ってやってるように振る舞いつつ、狭い店内を見ていく。
 が、やはりマミの姿はない。もう、違う場所に逃げたのではないだろうか。
「いないなぁ。マミちゃん」
「こんな狭い場所にいないのなら、もう別のとこにいるんじゃないか?」
「うーん………………。そうかもね。この狭さで居ないだもん。仕方ないか。とりあえず、今日は一旦戻ろ」
 意外にあっさりと諦めて帰るようだ。その辺は無理をしないスタイルなのか、単に面倒になったのかは知らないけど、帰るのなら一応、僕も最後に周りを見渡しておこう。
 ……赤い花、黄色い花、紫の花、水色の花。まさしく色とりどり、様々な種類の花が咲いていて、綺麗に置いてある。
 店自体は古いのに、花は全く枯れそうな感じもない。
 きっと、ここでずっと咲き続けてるのだろう。
「それにしても、綺麗だよね。ここのお花」
 僕の視線に気付いたのか、夢前が近くの赤い花を見て言う。屈んで鉢植えを触りながら、花を眺め始める。
「これはタチアオイ。花言葉は情熱とか熱い恋とかそんなのだった気がする。源氏物語で詩が詠まれてるんだね」
「へえ、すげえな」
 さすが、花屋が夢であった故によく知っている。さらに、僕は花なんてまるで興味が無いが、その語られた内容に思わず関心を示せた程だ。良いとこだけかいつまんで説明出来る辺り、幼少期のそれだとしても、伊達じゃなかったのが分かる。
「こっちの黄色のはアンデスの乙女って言うの。可愛い名前だよね。小さな花をたくさん咲かせてる感じも可愛い。確か散房花序って言うんだっけ。花言葉は『素敵な未来』」
「そっちの紫のも形が似てるな」
 僕もちょっと面白くなって隣にしゃがみ込み、アンデスの乙女と対面に位置するその鉢植えを指さす。
 見た感じ、形状は今話にあった散房花序に似ている。