またどっかに行かれるも面倒なので、制服についた草を落としている夢前を尻目に、マミを抱えてやる。
 意外にすんなり腕に収まった。こう近くで見てみると小さくて可愛らしいが、一瞥よこした顔が不機嫌そうでブサイク。本当可愛げない。
 もう一度撫でてやろうと頭に手を置こうとする。今度は受け入れてくれたのか、嫌がる素振りをしなかった。けど、目線を合わせようとしない。
「一体どこを見てるのやら」
 何かを――そこから何かを出てくるのを待ってるかのような様子に、僕もマミと同じ方向に目を向けようとした。
 ――まさに、その時だった。
「え?」
 線路の奥側から電車のクラクションが鳴り響いたのだ。
「わ、なになに、あれ」
 反射的に振り返る。
 そこには、街へ向かって線路を突き進む、古びた電車が走っていた。
 ガタンゴトンと音を鳴らして、まるでそのまま駅に到着するかのように速度を緩め始めて。

 さっきまでの光景が嘘のように変化した。
 そもそも、駅なんて無かったのに。
「あ、れ?」
 無かった筈なのに。
「ここは……どこ……?」
 なんで僕らは改札の前に立っているのか――。

「ミャア」

10

「え? これって、どういう事?」
「分からん。ただ、あの時電車が見えて、それで」
 記憶にはしっかりと、先ほどまでの光景が残っている。
 マミが突然逃げて、僕らはそれを追った。そうしたら、何もなかった筈の線路に電車が走り、駅がいきなり現れた。実に奇怪な話だ。
「……こいつには、分かってるのか」
 そして今起きた現象を、マミは分かっている。
 線路を歩く僕らを誘導するかのように外に飛び出し、その線路には電車が現れて、止まった場所が駅になっていた。
 マミに案内されるがまま、僕らはたどり着いたのだ。
 この街の駅に。
「……迷わせられちゃったのかな、わたしたち」
 僕に抱えられたマミを見て夢前がぽつりと言う。
「どういう事だよ」
「この駅、なんか今まで見てきたものより凄く懐かしい感じがしない? あの券売機も、切符しか通せない改札機も、そこの待合室も……全部懐かしい。だから、また迷っちゃったんだよ」
「何を言いたい」
「この街の事」
「……」
 言われる通り周りを見渡すと、確かに懐かしくて、昔ながらの雰囲気がある。