認めたくなかったが、僕は夢前に対してこんな感じなのか。
 あからさまにアピールはしないけど、実は態度に出てしまっている。それは自分でも分かっている。
 何か痛々しい。現実を見せないでくれ。
「ああっ」
 すると、マミがひょいっと夢前の手元から飛び出した。
 線路の外側を、軽やかに飛び跳ねるように進んでいく。結構足が速い。
「待ってー」
 慌てて夢前もそれに続いていく。生い茂るネコジャラシの背が少し低い場所。マミはそこに入るなり突然止まってこちらを見た。
 自由だなあの黒猫。
「それに振り回される夢前もなかなかどうして」
「なんてー?」
「なんも」
 夢前も周りの草を掻き分けて突き進む。あぁ、スカートやソックスになんか色々くっついてる。ありゃ後で洗うの面倒くさくなるパターンだ。
 しかし、僕も追いかけて行く内、スラックスにネコジャラシやらが泥やらが付いてしまう。ああ、帰ってからこいつを洗わなきゃならないと思うとテンションが下がる。
「ったく、お前は小学生か。勝手に進みやがって」
「だってマミちゃんが逃げるんだもん。しょうがないよ」
「いやまあ、そうだけどさ」
「でしょ」
「けど、なんか、ガキの頃と変わらなすぎだろ」
 猫といえば、小学四、五年の頃だったか、こいつが野良猫を家に連れ帰っては父親に怒られたのは。
 学校の帰り道に必ず通る線路沿いの道があって、その茂みに入っては野良を数匹持ってくる。
 で、アパートだからそんなの飼える訳ないって言われるもんだから、渋々元の場所に持って帰る。たまに、僕の方にもやって来て、こそこそ猫の世話をしたな。
 あの時から、僕が猫に好かれないのも、夢前が猫に対して猪突猛進なところがあるのも、今のを見たらなんら変わってない。
 成長しないものだな、人間って。
「そうかなー」
「そうだ」
「ミャアー」
 タイミングよくマミにも反応される。実はあの時の野良の中に、こいつがいたんじゃないのだろうか。あり得ない話じゃない。
 だとしたら、他にも野良たちはいるのか。その内探してみるのもいいかもな。
「あーあ、お前、ケツにまで草ついてるぞ」
「うそー。わ、気づかなかった」
「普段の女子力とやらはどこへ?」
「さあー?」
 追いついたところで、マミが毛繕いしながら、気だるい欠伸をして出迎える。
 妙におっさんくさい動作だ。