そのマミを見ながらも、どこか遠いところに視線を泳がせる夢前は、屈んでもう片方の手で頬杖をつく。夕焼けに照らされて儚げな雰囲気が漂っている。
 ――なんでこいつは、夕焼けに照らされるとそう見えてしまうだろう。
「よいしょっと……じゃ、戻ろっか」
 マミを抱えて立ち上がり、元来た道の方向を見る。
 視界に映し出された街並みは、淡く揺らめく陽炎に霞まされている。それはどこまでも遠くて、僕らのたどり着けないところにあるみたいにも見えた。
 こんなに歩いたんだなと、一人で感心する。
 同時に、これだけ歩いても街からは出られないんだと溜息。マミも随分ご苦労なこった。何もここまでついてこなくてもいいのに。
「わざわざ来てもらったのに悪いな。駅はまた今度にしようか」
「気にしないでよ。わたしは兵悟さんについて来ただけなんだからさ」
 夢前の腕に抱かれるマミを、何となくひと撫でしてみたが、やっぱりそっぽを向かれた。僕は猫に嫌われているのだろうか。なんだかなあ。
「……」
 見渡せば、この辺はネコジャラシだらけだ。たまに花がある。青色の小さい花。花屋志望だった夢前は知っていたりするのであろうか。訊いてみてもいい気がする。けど、敢えてそれはしないでおこう。
 あっさり「知らない」って言われるのも、反応に困るしな。
 僕らはそのまま足を進めていく。その間、なぜか夢前は静かだった。マミの首元を触るだけで、何も話してこない。猫が手元にいると、喋るのって難くなるのだろうか。
 ――いや、そんな筈ないか。
 たぶんただ、何となく話さないだけだ。
 本当にそれだけなんだ。
 虚しく響く線路を歩く音を聞きながら、街に戻っていく。
「ミャア」
 どのくらいの時間が経ったのだろうか、マミが夢前の撫でる指にかったるそうな声を出して反応した。
 思わずマミを窺う。
 ふてくされたような顔をしていた。実は静寂が嫌だったりしたのであろうか。
 だとしても、もっと可愛く鳴いたらどうだろう。さっきからこいつの鳴き声は可愛げがない。
「みゃあ」
 そしてなぜか夢前が鳴く。マミに顔を近づけて楽しそうに戯れ始めるけど、当のマミはあまり乗り気じゃないようだ。
 自分で鳴いておいて、いざ構ってやったら迷惑そうにする。
 素直じゃないヤツだ。
「兵悟さんみたい」
「なんでそうなる」