「うーん、謎と言えば謎だけど、まあその時になってみないと分からないし、あんま騒いでもね?」
 そんで出たよ。こいつのその時にならなきゃ分からないシリーズ。
 なんつうか、質問に対して適当な回答なのはいつもだけど、これは考える気すらも感じられないパターンである。
「好きなタイプの男性は」
「その時にならないと分かりません」
「結婚願望は」
「その時にならないと分かりません」
「服は上から脱がされたいか、下から脱がされたいか」
「おや、何の話かな」
 はぐらかされた。わざとらしい。
「言っていいのか? セッ」
「やー、いいよ言わなくて」
「で、やっぱ上からか?」
「知らないもん。分かりませーん」
 唇を尖らせて、そっぽを向かれる。
 やっぱこっち関連の話題は恥ずかしいらしい。まあ、一応女子だし。
 ……いやそれは置いといて、問題なのはこの状況だ。
 まさか閉じ込められているような状態とは、思ってもみなかった。街からまだ出るつもりもないが、街にずっと残るつもりもないのだ。
 いつかは出る。ならば、出口くらいは今の内に探しといた方がいいだろう。
「仕方ない。一旦戻るか」
 後ろを振り返って、立ち止まった足を再び動かそうとする。
 眼に映るのは夕焼けの中の陽炎と、線路の先にある街並み。
 そして、黒い何か。
「なんだ……あの黒いの」
 線路の上にポツンといるそいつは、ジッと僕らの方を見ていて、かと思えばキョロキョロ視線を変えては、もぞもぞと動く。
 僕らから約五十メートル先、なんだかんだ近づいてくるそいつは、どうやらずっとこちらを追って来たらしい。
 一体どこからつけられていたのだろう。
「へえ、猫なんてこの街に居たんだな」
 ようやく足元まで歩いてきた黒い猫。思ったよりも小さくて、細い体つきをしていた。
 ちゃんと食べてないのだろうか。毛の色と同じ色の首輪には、石ころくらいの箱がぶら下がっている。よく見りゃトランクの形をしていて、頭を動かす度にそれが左右に揺れている。
 何だか、うっとおしそうだった。
「おーキミかぁ。何してたのかなぁ。寂しくなっちゃったのかなぁ。ごめんにゃあ」
 急に甘い声を出しながら猫と戯れる夢前。
 見た感じ面識があるらしい。初めて知った。そんな気配、全然なかったのに。
「どこにいたんだ、そいつ」