思い出せるのかどうか、思い出したら何かあるのかどうかを。
 これは、その為のアイテムにしておきたいのだ。
「しかし、本当に」
 僕は公園の出口まで歩きながら空を見上げる。変わらないオレンジ色が続いていて、やはり見惚れてしまう程に美しい。
 全部忘れてしまうくらいに。
「夕焼けってのは良いよな」
 そしてこの公園で見ると尚更美しくて、ずっと見てると意識が持ってかれそうになる。
 僕らの何か重たいものを溶かすかのように、優しく、温かい夕焼け。
 今までよりも強く。飲み込まれるくらいの力がある。
「なあ、少し冒険していかないか?」
 夢前が後ろからとことこ近づいて来て、僕の隣に並ぶ。
 何となくその頭に手を伸ばすと、こちらを不思議そうに見上げて、ふふっと笑みをこぼした。
「いいよ。どこいくの?」
「駅。どんなところかさ、ちょっと思い出しに行きたくて」
「……そっか。じゃ、兵悟さんの仰せのままに」
 自転車のスタンドを上げて、公園を出る。
 妙に懐かしい空気を漂わせる街並みを見つつ、僕らの『知らない場所』を目指す為に。
 単純に忘れてしまっただけの、思い出せるかも分からない場所へと。
 夕焼けが全てを忘れさす前に、この街を出る前に、何かが見つかる事を信じて。

 9

 僕らは道端の適当な場所に自転車を停めて、線路沿いに駅に向かっていた。
 駅がどこにあるのか、何という駅なのかは覚えてない。
 となると手掛かりになりそうな場所はこの線路だろう。線路の上をひたすらに伝っていけば絶対に駅がある。
 ――ある筈なのだが。
「何もないな」
 眼に映るのは変わり映えしない風景だけ。
 同じような、見た事のあるような景色が、永遠に続いているだけ。
 この街を出ようとなんてした事がなかったから知らなかったけど、僕らはどうやら閉じ込められているらしい。
 この街に。
「兵悟さん、どうする? このまま歩いても意味なさそうだけど」
「どうすっかね……ってかお前さ、あんま驚かないんだな、この状況に。もっとリアクションあってもいいだろ」
 夕焼けが沈まない事を知った時も、自分たち以外しか人がいない事を知った時も、こいつはやけに落ち着いていて、終いにはへらへら笑ってやがった。なんかこう、いわゆる超常現象に対して、緊張感に欠けてるのだ。