けれど、僕は敢えて不服そうに言う。
「他に誰がいるんだよ」
「なにその言い方」
「ムカつくんだよ、お前の行動」
「ちょっ、そこまで言う事ないじゃん!」
「いちいち、うるせえな」
「あ~~もう! そっちこそ何様なの! 言い方考えてよ! 腹立つ!」
 と、夢前が今日一番の大声を出したところで、お互いに『はぁ』と一息。
 このままやっていると本気で僕が悪い奴になりそうだ。全く、ノリでやるのもいい加減にして欲しい。
 そもそも僕が夢前にそんな事言う訳がない。
「茶番タイムか」
 見合いながらも、夢前は笑う。
「正解。今日も良い感じだったね」
「だろ。僕は性格悪いの似合うからな」
「ねえ、さっきの全部冗談でしょ?」
「当たり前だろ」
「わたしの事好きだもんね」
「調子に乗るな」
「乗らせてよ」
 先ほどとは打って変わったいつも通りの口調。冗談でも怒った夢前なんかより断然こっちの方が落ち着く。
 そりゃ当たり前の話なのだが。
「勘違いされるだろ」
「誰にさー」
「お前に」
「素直じゃないなあ」
 時々始まる茶番劇は、基本的にこんな感じで、最後はお互いに恥ずかしいやり取りになる。
 だから、あんまりノリでやるもんじゃない。特に僕の過去にかこつけてやるのはマジで痛い。
 勘弁して欲しい。
「でも、その紙。こんなのにしたのは、ちょっと嫌だったか?」
 足元の紙切れをひとつまみし、夢前の頭にちょこんと乗っける。手入れがしっかりしてるから髪がつやつやしてる。
「ちょっとだけね。でも、兵悟さんが破きたかったのなら良いんじゃない?」
「回答が適当だな」
「えーじゃあ、わたしをお花屋さんにしてくれたら許す」
「あれ、今でも花屋になりたかったのか」
「そうでもないかな」
 なんなんだよ。
「まあ、折角だし新しく書いてよ」
「今度な」
「いえーい。ニヤニヤできるのをよろしく」
 出していた缶箱に入ってた物を戻し、蓋を閉める。また登るのもアホらしいので、木の根元にそっと置いておく。
 一応、乗車券だけ持っておいた。唯一まだ使えるという点と、『電車』『列車』という点が気掛かりだったからだ。
 ……この街の駅を、僕らは覚えてない。
 だから、例え辿り着いたところで、『何かあったな』くらいの感覚しか残らないだろう。
 なら、忘れてしまったという事が分かってる今、ちょっと試してみたい。