「触りたくなったー」
「ふうん。僕はお前のほっぺたの方が好きだぞ。柔らかくて、こんにゃくみたい」
「例えがなぁ。そこはお餅とかにしてよっ」
 コツン。と軽く頭突きされる。だいぶ僕に重心を預けてるせいで、よろけそうになる。
「痛いやんけ」
「スキンシップやんけー」
「頭突きはスキンシップじゃないだろ」
「まあ、正論ですなぁ」
 肩からようやく離れて、重さが解放される。
 何だか立ってるのも変なので、二人でベンチに腰掛ける。
 僕は深く、夢前は浅く、
 互いの距離は、近く。
「また、紙芝居見たいね」
 たくさん思い出の詰まった公園は、今も変わらない。あの紙芝居の物語みたいに、『思い出』に最終回のようなものはないのだ。
 無い。だからこそ、残り続ける。
 すがりついていたくなる。
「ああ。その後"レッドマスク"ごっこして、ジャングルジムの上に待つラスボスを倒したい」
「わたしはお姫様でもやればいい?」
「そうだな。お前は魔王の城に囚われてて、僕が助けに来るのを待ってるって感じで」
 昔を懐かしむっていうのは、はたから見たら無駄な事なのかもしれない。
 今の僕らも、二人で勝手に盛り上がっててアホらしいと思う。
 でも皆、そうやって生きているのだろう。
 過去にしがみつきながら、今が一番楽しいなんて気付きもせず、生きているのだ。
 ――そう、だから
 この街でまだ僕らは夢を見ていたい。
『今』なんてものを忘れた僕らは、ここで過去をずっと懐かしんでいたい。
 いつか、そんな過去も忘れてしまう日が来るまで、『今』に帰らなきゃいけない日が来るまで。
 
 もう少しだけ、ヒーローでありたい。
 
8

「昔、公園のどっかにタイムカプセルを埋めたのさ、思い出した」
 小学三年の頃だったであろうか。
 僕と数人の遊びのグループでタイムカプセルを埋めた。
 何を埋めたのかなんて、当然覚えちゃいないんだけど、何年後かにそいつらと掘りに来ようぜと約束し合ってから、十年くらい経ってしまった。
 たぶん、皆タイムカプセルの事すらも忘れてしまっているだろう。
 僕だって紙芝居の話をしなきゃ思い出せなかった。
 と言うのも、タイムカプセルの提案者は紙芝居のおじさんなのだった。