「……」
 目に映るやけに古びた校舎は、実際僕らの通う学校のものであり、見上げれば最上階が四階であるのが分かる、比較的普通である建物だ。
 敷地内の設備だって、たぶんどこにでもあるようなモノばかりだし、何か特筆的なオブジェがあるという事もない。
 校門近く、いつもの駐輪場に着いて、改めて自分たちのその普通さとやらを実感し終える。
「ん~~~」
 いくつかの自転車をぼんやり眺めていると、何を思ったのか、僕の前で突然伸びをする夢前。
 短いスカートに伸びる脚に、思わず目線が移ってしまう。
 これは男の性。
 しかしまあ、一度くらいは見てみたいあの中。
 そんな気持ちを口にするは馬鹿。
 つって。
「週プレで我慢するかあ」
「なんてー?」
 聞こえていないようで安心した。僕がこいつをいやらしい目で見ていた事が知れたら、変にからかってくるかもしれない。嫌だ。男心を弄ばれているようで、何か嫌だ。
 自分の自転車のカゴに荷物を入れて、荷台にまたがる夢前。
 脚を揺らして、少し前屈みになる。これまたいつもの座り方をしている。
「二人乗りは校則違反だぞ」
「まーた言ってる。毎回してんのに」
「させられてるんだよ、お前に」
 一応は二人で自転車登校していたのだけれど、夢前が二人乗りを強要してくる為に、いつしか自転車は一台で事足りるようになってしまった。
 それも前までだったら、人の目を気にして拒否権を使っていたのだが、今は特段そんな理由もないし、そんな必要もなくなってしまった事が起因している。

 この街には、僕たちしかいない。

 ◇
 
「で、今日の晩飯どうするよ」
「カツ丼が食べたい。半卵乗ってるのね」
「あれ、お前ってカツ丼好きだっけ」
「好きだねー。女子力下がる気がするけど、美味しいから好き」
「食い物でも上下するのか。大変だな」
 その女子力の加減法に、他に何が減として扱われるのかを議論しながら、僕は自転車の後ろに夢前を乗せ、ショッピングモールを目指す。
 相変わらず僕の背中に体を預けて楽してやがるだけど、正直背中がくすぐったいからやめて欲しいものだ。
 結構ムズムズする。
「かゆいの?」
「お前のせいでな」
 ほんのり温かく、ほんのりぬくもりを実感する。