それを使うのもなんか癪なので普通に作ろうと鍋を探す。業務用の大きい鍋をスルーし、いつもの家庭用のを取ってくる。
 さて、具は他に何を入れようか。
「なあ、夢前――」
 そうやって、僕らは大して時間も掛ける必要のない一品を、話しながら余計な事をしながら、のんびりと作っていった。味がどうなるかなんて考えもせず、ただ二人で料理をして、そんな時間をただ過ごすだけでも充分で、満足だった。
 このまま、もう少し、この街にいたい。
 いつか街を出る日まで。もう少しだけ。
 
 4

「僕って天才かもしれない」
 ただの好奇心だったのだ。ただ、置きっぱなしのそいつを混ぜてみたら面白そうな気がした。それだけだったのだ。
「うん、兵悟さんこれはアリ。わたしは好き」
「惚れる?」
「ベタ惚れだね、結婚しようかな」
 その味を噛み締めながら二人して頷く。
 美味い。カツ丼のご飯に茹でダコ入れるむっちゃ美味い。
 あそこの置き去りにされた食材の中、妙に目立っているパック入りのタコを気まぐれ半分ぶっこんでみただけなのに、ご飯にタコのダシが程よく効いて揚げたてのカツを絶妙な調和を見せたのだ。
 タコ飯とカツってこんなに相性良かったったんだな。
「……なあ、タコって言えばさ、夢前、"怪人オクトパシ"って覚えてる?」
「どったのー、急に」
「アレだよ。"レッドマスク"に出てくる敵」
 箸で半玉を崩しながら、昔好きだったそれを思い出す。
 たぶん、まだ小学校の頃だ――僕はその話が大好きだった。
「んん………………ああ、紙芝居のやつかー。公園に毎日やりに来るんだよね」
「そうそう。しょっちゅう一緒に行ってたな」
 それこそ、そんな時代から夢前とは仲が良くて、よく遊んでいた。
 小学校の帰り、母親の井戸端会議を横目に見ながら、近所の公園にてその場に居た奴らと隠れんぼや、かけっこをしていた。
 夢前もたまに加わっては、僕に「ひょーごくん、どったのー」なんて言ってたっけ。
 ……あれ、今も変わってなくね。
「あん時の夢前は可愛いかったのにな」
「嘘でしょ? 今の夢前も可愛い。に一票で、どっすか」
「死票」
「え。ひでーや、ひょーごくん」
……うわ。