「れっつごーキッチン、目指すは~馬鈴薯」
 カートに積んだそれらを押しながら、ご機嫌な唄を口ずさむ夢前。向かう場所はもちろんキッチン、もといフードコート。
 一本道を抜け、大きめのフードスペースに出る。多過ぎるテーブルの端には、この前来た時の痕跡が少し残っている。食材とか料理雑誌とか、そのまま置きっ放しになっていた。
「兵悟さんさー、料理出来たら持ってくけど、どこらへんいるー?」
「いや、いいよ。ここで待ってる」
「あ、なら一緒に作ろうよー。カツ揚げるだけだしさ」
 丼モノの店の近く、集めた材料を手当たり次第に置いていく。肉にパン粉に卵に油に米一キロにソースにマヨネーズに和三盆なんかもある。いや、何に使うんだよ和三盆。
「ああ、そうすっか」
「じゃあ、兵悟さんはご飯炊いて」
「分かった」
 そうこうして、さっそくカツ丼作りが始まる。
 ふと、学校の家庭科でやった親子丼の調理実習を思い出した。あの時も、僕はご飯を炊くだけで、女子が先陣切って殆どやってたな。やはり、男子は邪魔者扱いなのだろうか。じゃ、女子だけでやりゃあいいのに、とか思ったり。
「あ、二人分だけだし、ジャー使えばいいよ」
 業務用の炊飯器を開けようとして気付く。そうだ、こんな何十人もの飯を作る機械でわざわざ僕らの分を作る必要はない。なんか、普段作らないから店の器具しか使わないといけないような気がしてしまった。こういうのを柔軟性が無いと言うのだろうか。
 近くにおきっぱなしの、料理の際にいつも使っている家庭用炊飯器をこちらまで持って来て、作業開始。三合分くらいの米を目盛りに合わせて、釜に入れる。何回か研いで、同じ要領で水を注ぐ。そしてスイッチをオン。ピッと音が鳴って僕の仕事の終了を告げた。
 ……便利な世の中だ。便利過ぎて仕事のしがいが無い。
「次なんかあるか?」
 手持ち無沙汰なのも嫌なので、せっせと溶いた卵に肉を浸す夢前を見る。寝巻きの学校ジャージのせいで本当に調理実習みたいな気分だ。基本うちの学校、授業はジャージだったから。
「こっちはご飯炊けるくらいまで浸しておくつもりだから、付け合わせでも作る? おみおつけとか」
 雑把に並んだ材料には、豆腐やネギ、味噌がある。ついでに『究極の味噌汁』とか言うインスタント味噌汁もあるけど、これは何? あんま料理作らない僕用?