振り返った先、夢前がさっきと同じの学校指定のジャージ姿で近寄って来る。
 そしてパークを見ながら、
「この後遊んで行かない?」
 と。
 なんか同じ事を考えてたなんて口にしづらくて、ぶっきらぼうになる。
「ああ、いいね」
 わざとらしく誤魔化して、僕用のシャワールームの扉に手を掛ける。
 ガタン、とドアが開いて二人して重なる「じゃ、あとで」。僕は中に入る。
 狭くて湿り気を帯びた一人だけの世界。ずっと居たら滅入ってしまうだろう。
 やはり一人だけというのはどんな場所でも嫌だ。
 だから、僕は夢前といるのだろうか。
 だから、夢前も僕といるのだろうか。
 時々にこうやって、考えても仕方ない事を考えては自分達の『存在』というのを確かめようとする。
 それは二人とも同じで、行動は違えど必ずそうしている。
 例えば二人乗り。
 例えばクレーンゲーム。
 例えばおでん。
 例えばヘアスタイル。
 どこかで自分の『存在』となるモノを共有して、どこかでそれを実感し合って、僕らはここで生きているのだ。
 悪い事でも、良い事でもない。本当、考えても仕方ない事。
 僕らの当たり前の事。
 
 服を脱ぐ。首筋についている髪の毛を落とし、その時一緒に何か落ちるのを見て気付いた。

 涙。

 きっと僕は、『今』を失うのが怖いのだ。
 あいつは、どうなんだろう。

 ◇

「おお、いいぞわたし」
 さっきあげたミルクティーを一口含んで、9番ボールに狙いを定める夢前。
 手玉が真ん中に行ったせいで、台に体を押し当てるような体勢になりながら、片目をつぶって玉の軌道を予想している。
対して真後ろにいる僕、眼前のお尻にしか目が行かない訳で、本当にもうどうしようもない気持ちになっている。
「体操着ってすごいな」
「なんの話ですかー」
 浮き出た下着のシルエットに妄想を掻き立てられていると、コツンと玉が打つかる音がした。9番ボールが押されてノロノロとポケットへ向かっている。
 真っ直ぐな軌道を維持して、そのままストンと気持ちいい音。
 ……という事で、勝者は夢前となった。
「いえーい。リベンジ成功」
「負けた……」
 一勝二敗という、おしいようなおしくないような結果に溜息を漏らしながら、道具を片付ける。
 同時に無性に腹が減ってくる。変に集中していたから、飯の事を忘れていた。