「兵悟さん、その位の方がイケメンっぽくて良いよ」
あらかた髪を集めたところで、夢前が箒をついて壁に寄り掛かる。僕の髪を眺めてたようだ。
「もともとイケメンに一票」
「死票で」
 ニヤニヤしながら見てくるそんなぱっつん女子。憎たらしい顔しやがる。
「でも、本当にいい感じだよ」
 僕も手を止めて、改めて鏡に映る自分の姿を確認する。
 毛量が軽くなっただけだけど、さっきまでとは印象がまるで違う。
 切る前は全体的にもさついてて、どこか陰気なオーラが出た、根暗サッカー部だったけれど、今は割と好青年。たぶん中堅のサッカー部くらいには見えるだろう。
 いや、僕サッカーやってないんだけどさ。
「お前はなんかこう、相変わらず丸顔うさぎって感じだな」
「なにそれ。素直に可愛いって言えばいいのに」
「夢さん可愛いぞ」
「惚れそう?」
「ないな」
「やー、なんか恥ず」
 ほうきで顔を隠したようだが、当然全く隠れてない。おまけにまだニヤニヤしてる。こんなので喜ぶなよ。単純か。
「喜んでないしっ」
「そういうのいいから」

 ――さて、次はどんな髪型にしてやろうかな。
僕もこいつも、互いにそんな事を思っていて、それも互いに分かっているのだろう。
鏡に映る僕らは、同じ表情を浮かべている。
変わらないな、僕らは。

 3

 首の後ろがチクチクする。かゆい。
 早くスポーツパークのシャワーで流そうと、用意していたいつものスウェットと下着を脇に抱える。
 このフロアから大体五分程度の位置にあるスポーツパークだが、そういえばスポーツ施設の方はあまり利用した事がない。
 何せ、夢前はそこまで運動神経が良くない。すぐにバテて自爆する。
 そもそも二人で出来るスポーツ自体も多くはない。あるのはバドミントンと卓球くらい。
 遊戯室にあるビリヤードとかダーツとかの、運動神経の良し悪しが関係ないヤツの方がよっぽど盛り上がる。
 この前なんか二十戦ぶっ通しでナインボールをやったくらい。最後の方は二人とも死んでたけど、かなり盛り上がった。
 ――この後遊んでいこうかな。
 漠然とそんな事を考えながらスポーツパークに到着する。
 広くて誰もいない空間。それに対峙している僕。
 何か巨大な『寂しさ』のようなものを感じていると、もう一つの歩く音が後ろから近づいてくる。
「ねえ」