「……ホワイトデーなので、お返しがあります」
ブランコに座り、日下部くんはそう言いながら伏し目がちに私のほうへ紙袋を差し出してきた。
「あ、ありがとう……開けていい?」
「はい」
緊張で震える手で、紙袋を開ける。中には少し前にオープンしたお店のバウムクーヘンと、――小さめの箱のような包みが入っていた。
「ここのバウムクーヘン、ずっと気になってたんだよね。嬉しい。一緒に食べようよ」
「その前に、もう一つのほうも見てみてくださいよ」
もどかしそうに、日下部くんがそう促してくる。それを開けるのがなんだか怖くて、見ないふりをしていたのだ。
「これ……開けていいの」
「あなたに渡したものですから。開けてください」
包装紙を開けると、見たことのあるアクセサリーブランドのロゴが入った箱が見えた。ゆっくりとその箱を開けると、ざくろのような色をした小さな石が埋め込まれたネックレスが現れた。
「これ……」
「バレンタインデーに作るブラウニーにわざわざキャラメルを入れる人が、気づいてくれないわけがないですよね」
日下部くんの言葉に弾かれたように、反射的に顔が上がる。彼の頬が少し赤いのは気のせいではないはずだ。
「――そういう意味だって、捉えていいの?」
このお返しに込められた意味は分かっている。それは、私が夢に見ていたものと同じだ。
バウムクーヘンもネックレスも、相手への特別な好意を示すプレゼントだったはずだ。
「お菓子やアクセサリーにだって意味があるのなら、それを素直に読み取るのもいいんじゃないですか? 誤解されて困るようなことはありませんから」
「――せっかく目の前にいるんだから、言葉でだって聞きたいよ」
目の奥からじわじわと込み上げてくる熱いものを必死にこらえながら、私は日下部くんに駄々をこねた。すねたように視線を外し、さまよわせた後、彼は観念したように私の目をまっすぐにとらえてきた。
「俺は、水澤さんのことが好きです。――できれば、変な理屈をつけなくても一緒にいられる権利が欲しいって思っています」
素直になりきれない彼の言葉が、胸の奥のいちばん深いところをくすぐった。日下部くんらしいちょっと遠回りなセリフが愛しくて、泣きそうになる。
「……言おうと思ってたのに、先に言われたなあ」
「水澤さんが言わせたんですよ」
地団駄を踏む子どものような日下部くんの声に、頭の中がショートした。驚くくらい自然に言葉が口から滑り落ちた。
「日下部くん、……私もあなたのことが好きだよ」
その瞬間、公園を風が通り抜けた。春用の軽いコートはその勢いに巻き上げられる。ぐしゃぐしゃになった髪をかき分けて、私はまっすぐに日下部くんの目を見つめた。
ブランコに座り、日下部くんはそう言いながら伏し目がちに私のほうへ紙袋を差し出してきた。
「あ、ありがとう……開けていい?」
「はい」
緊張で震える手で、紙袋を開ける。中には少し前にオープンしたお店のバウムクーヘンと、――小さめの箱のような包みが入っていた。
「ここのバウムクーヘン、ずっと気になってたんだよね。嬉しい。一緒に食べようよ」
「その前に、もう一つのほうも見てみてくださいよ」
もどかしそうに、日下部くんがそう促してくる。それを開けるのがなんだか怖くて、見ないふりをしていたのだ。
「これ……開けていいの」
「あなたに渡したものですから。開けてください」
包装紙を開けると、見たことのあるアクセサリーブランドのロゴが入った箱が見えた。ゆっくりとその箱を開けると、ざくろのような色をした小さな石が埋め込まれたネックレスが現れた。
「これ……」
「バレンタインデーに作るブラウニーにわざわざキャラメルを入れる人が、気づいてくれないわけがないですよね」
日下部くんの言葉に弾かれたように、反射的に顔が上がる。彼の頬が少し赤いのは気のせいではないはずだ。
「――そういう意味だって、捉えていいの?」
このお返しに込められた意味は分かっている。それは、私が夢に見ていたものと同じだ。
バウムクーヘンもネックレスも、相手への特別な好意を示すプレゼントだったはずだ。
「お菓子やアクセサリーにだって意味があるのなら、それを素直に読み取るのもいいんじゃないですか? 誤解されて困るようなことはありませんから」
「――せっかく目の前にいるんだから、言葉でだって聞きたいよ」
目の奥からじわじわと込み上げてくる熱いものを必死にこらえながら、私は日下部くんに駄々をこねた。すねたように視線を外し、さまよわせた後、彼は観念したように私の目をまっすぐにとらえてきた。
「俺は、水澤さんのことが好きです。――できれば、変な理屈をつけなくても一緒にいられる権利が欲しいって思っています」
素直になりきれない彼の言葉が、胸の奥のいちばん深いところをくすぐった。日下部くんらしいちょっと遠回りなセリフが愛しくて、泣きそうになる。
「……言おうと思ってたのに、先に言われたなあ」
「水澤さんが言わせたんですよ」
地団駄を踏む子どものような日下部くんの声に、頭の中がショートした。驚くくらい自然に言葉が口から滑り落ちた。
「日下部くん、……私もあなたのことが好きだよ」
その瞬間、公園を風が通り抜けた。春用の軽いコートはその勢いに巻き上げられる。ぐしゃぐしゃになった髪をかき分けて、私はまっすぐに日下部くんの目を見つめた。