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海を後にした私たちは、海の近くの展望台に来ていた。眼下に見下ろす港町と遠くの水平線は、私がこの街で好きな景色の一つだ。初めて来たという日下部くんは、地上三一階からの景色にはしゃいでいた。
「すごいですね、この景色」
「でしょ? ずっとずっと遠くまで見渡せるから好きなんだ。日下部くんが海に行くのと同じように、私もたまにここにきて気分転換するの」
「いい場所ですね」
まだ時間が早いので夜景は見られなかった。今度は夜に来られたらいいな、などと淡い期待を抱きながら地上へ降りる。そのままテラスに出て、うっすらとオレンジがかってきた太陽に照らされる川面を眺めた。海や川の水面を見ていると、不思議と無心になってしまう。昼から一緒にいるのに、日下部くんとの口数はいつもよりもずっと少なかった。
少し早めに夕食を済ませ、家へと車を走らせる。帰るころには陽が沈んでいるだろう。グラデーションの空は綺麗な色をしていた。
マンションの駐車場に車を停め、降りようとすると、日下部くんがコートの袖口を引っ張ってきた。
「何?」
「このまま、もう少し付き合ってくれませんか」
さっきまでとは違う緊張した雰囲気に、私は思わず息をのんだ。いいよ、と頷くと、車を降りた日下部くんはいつもの公園のほうに歩きだした。まだ星を見るには早い時間だけれど――どういうつもりなのだろうか。
公園に無造作に映える草をざくざくと踏みながらしばらく無言で歩く。ブランコの近くで立ち止まり、先に沈黙を破ったのは日下部くんだった。
海を後にした私たちは、海の近くの展望台に来ていた。眼下に見下ろす港町と遠くの水平線は、私がこの街で好きな景色の一つだ。初めて来たという日下部くんは、地上三一階からの景色にはしゃいでいた。
「すごいですね、この景色」
「でしょ? ずっとずっと遠くまで見渡せるから好きなんだ。日下部くんが海に行くのと同じように、私もたまにここにきて気分転換するの」
「いい場所ですね」
まだ時間が早いので夜景は見られなかった。今度は夜に来られたらいいな、などと淡い期待を抱きながら地上へ降りる。そのままテラスに出て、うっすらとオレンジがかってきた太陽に照らされる川面を眺めた。海や川の水面を見ていると、不思議と無心になってしまう。昼から一緒にいるのに、日下部くんとの口数はいつもよりもずっと少なかった。
少し早めに夕食を済ませ、家へと車を走らせる。帰るころには陽が沈んでいるだろう。グラデーションの空は綺麗な色をしていた。
マンションの駐車場に車を停め、降りようとすると、日下部くんがコートの袖口を引っ張ってきた。
「何?」
「このまま、もう少し付き合ってくれませんか」
さっきまでとは違う緊張した雰囲気に、私は思わず息をのんだ。いいよ、と頷くと、車を降りた日下部くんはいつもの公園のほうに歩きだした。まだ星を見るには早い時間だけれど――どういうつもりなのだろうか。
公園に無造作に映える草をざくざくと踏みながらしばらく無言で歩く。ブランコの近くで立ち止まり、先に沈黙を破ったのは日下部くんだった。