『――何か、願い事しましたか?』
「したよ」
『へえ。何ですか?』
「秘密。こういう願い事って、口に出さないほうがいいって言うでしょ」
『じゃあ、俺も秘密にしておこうっと』
笑った吐息が、スピーカー越しにこぼれて耳をくすぐった。心臓がきゅんと疼いて、もどかしい気持ちになる。何度も何度も感じるこの疼きが恋しくて、また彼に会いたくなる。
お互いになかなか電話を切らなかった。私から切りたくなくて、次の日下部くんの言葉を待っているのだけれど、ずっと黙ったままだった。
『……寒くないですか? 風邪とか引かないでくださいよ』
「毛布にくるまってるよ。日下部くんこそ、ちゃんとあったかくしてなよ」
『わかってますよ。俺だって毛布かぶってベランダにいますから。でも、本当に寒いですしそろそろ戻ります』
「私も戻ろうっと。ほんとに風邪なんか引いたら洒落にならないもん」
『そうですね。じゃあ、おやすみなさい』
「うん、おやすみ」
電話を切って、私は部屋の中に戻った。まだ飲み干していない白桃サワーが、手元の缶の中でちゃぷんと揺れた。ソファに腰かけて残りを飲むけれど、胸がいっぱいで一気に飲めなかった。
翌日の土曜日はあっという間に過ぎていった。明日何を着て行こうかなどと悩んでいるうちに日が暮れていて驚いたくらいだ。どれだけ舞い上がっているんだ、と、自分に呆れてしまう。
それでも、明日が勝負の日になるのだと思うと、そわそわしてしまう。
近くにいるだけでいいと、ずっと気持ちを押し殺していた。だけど、それだけじゃ収まらないほどに気持ちが大きくなっていたことに気づいてしまってからは、この気持ちを伝えるなら明日しかないと、そればかり考えている。自分の言葉で彼に伝えたい。
それにリスクがあることだってわかっている。社内恋愛自体は禁止ではないけれど、軽い気持ちで始められるほどハードルは低くない。同期だって結婚が決まるまで秘密にしていたのだ。振られる可能性を考えたら、告白なんてしないほうがいいとは思う。
本当はまだ迷っている。言葉にしてしまったら、もう後戻りはできなくなるのだ。今までのような関係には戻れなくなるだろう。でもきっと明日の私は、それを口に出してしまうような気がする。
だったら初めからちゃんとその覚悟をして行こう。
いつもより少し早めに部屋の電気を落として、ベッドにもぐりこんだ。変な高揚感が体中を包んでいて、うまく眠れる気はしないけれど、無理やり瞼を閉じた。
「したよ」
『へえ。何ですか?』
「秘密。こういう願い事って、口に出さないほうがいいって言うでしょ」
『じゃあ、俺も秘密にしておこうっと』
笑った吐息が、スピーカー越しにこぼれて耳をくすぐった。心臓がきゅんと疼いて、もどかしい気持ちになる。何度も何度も感じるこの疼きが恋しくて、また彼に会いたくなる。
お互いになかなか電話を切らなかった。私から切りたくなくて、次の日下部くんの言葉を待っているのだけれど、ずっと黙ったままだった。
『……寒くないですか? 風邪とか引かないでくださいよ』
「毛布にくるまってるよ。日下部くんこそ、ちゃんとあったかくしてなよ」
『わかってますよ。俺だって毛布かぶってベランダにいますから。でも、本当に寒いですしそろそろ戻ります』
「私も戻ろうっと。ほんとに風邪なんか引いたら洒落にならないもん」
『そうですね。じゃあ、おやすみなさい』
「うん、おやすみ」
電話を切って、私は部屋の中に戻った。まだ飲み干していない白桃サワーが、手元の缶の中でちゃぷんと揺れた。ソファに腰かけて残りを飲むけれど、胸がいっぱいで一気に飲めなかった。
翌日の土曜日はあっという間に過ぎていった。明日何を着て行こうかなどと悩んでいるうちに日が暮れていて驚いたくらいだ。どれだけ舞い上がっているんだ、と、自分に呆れてしまう。
それでも、明日が勝負の日になるのだと思うと、そわそわしてしまう。
近くにいるだけでいいと、ずっと気持ちを押し殺していた。だけど、それだけじゃ収まらないほどに気持ちが大きくなっていたことに気づいてしまってからは、この気持ちを伝えるなら明日しかないと、そればかり考えている。自分の言葉で彼に伝えたい。
それにリスクがあることだってわかっている。社内恋愛自体は禁止ではないけれど、軽い気持ちで始められるほどハードルは低くない。同期だって結婚が決まるまで秘密にしていたのだ。振られる可能性を考えたら、告白なんてしないほうがいいとは思う。
本当はまだ迷っている。言葉にしてしまったら、もう後戻りはできなくなるのだ。今までのような関係には戻れなくなるだろう。でもきっと明日の私は、それを口に出してしまうような気がする。
だったら初めからちゃんとその覚悟をして行こう。
いつもより少し早めに部屋の電気を落として、ベッドにもぐりこんだ。変な高揚感が体中を包んでいて、うまく眠れる気はしないけれど、無理やり瞼を閉じた。