「今度の日曜日、空いてます?」
「日曜日? うん、何もないけど」
「よかった。そのまま空けておいてくださいね。また連絡します」
 言うだけ言って、彼は自席に戻っていった。同時に数名の社員が出社してきて、フロアが騒がしくなってきた。今日も元気な梨花ちゃんと、春の新作のスカートを纏った皐月が現れる。窓からは春らしい日差しが差し込んでいた。
 日曜日、と、ふとデスクに置いているカレンダーに目をやると、その日がホワイトデーであることに気づいた。もしかして、本当にお礼に何かあるのだろうか。先月の自分の所業を思い出して、また全身がかゆくなりそうな羞恥心がよみがえる。
 日下部くんは、あの意味に気づいているのだろうか。わかってほしい気持ちと、まだ気づかなくていいという逃げの姿勢が心の中でせめぎあう。今までのような関係を淡々と続けている彼が何を考えているのか、知りたいけれど知りたくない。
 そもそも、彼が私に執着する理由だっていまだに聞けていないのだ。思えば去年の四月、彼と公園で遭遇した時から謎だったのだ。普通ならほっとかれて当然だと思うのだけれど、危ないから、という理由で強引に約束させられた。そのあとも何かと二人で出かけたがるし、バレンタインだってせびってきた。わけがわからない。
 どうせ訊いたってまともに答えてくれないのだ。今までだって何度か訊ねてみたけれど、適当に流されている。どうでもいいと思っていたけれど、恋心を自覚してしまったらやっぱり気になってきて仕方ない。
 日曜日、何かあるなら訊いてみようか。でもどうせまた、ろくな返事が聞けないのだろう。
 立ち上がったパソコンにパスワードを打ち込み、仕事を始める。仕事中はそれに集中できるから楽だ。あれこれ考えるのはまた後にしよう、と一つ息を吐いて、私は昨日やり残していた書類を開いた。