年が明けて、大雪に埋もれた実家から新潟市内に戻ると、その雪の少なさに愕然とするのは毎年のことだ。新幹線で一時間足らずの距離でしかないのにここまで違うなんて、自然というのは面白いものだ。
「あけましておめでとうございます」
 仕事始めの社内では、今日だけの挨拶があちこちで交わされていた。隣に座る皐月ともおはようの代わりにそう交わして、パソコンを立ちあげる。
「桃子、年末よりちょっと顔色良くなったね。ここ二週間は本当に元気なかったから、心配していたんだけど」
「うん、ちょっといろいろあってね……でもだいぶ元気になってきたよ。ありがとう」
「……何があったのかは聞かないけど、いつでも相談に乗るから。一人で抱えちゃわないでね」
 皐月の言葉が胸にしみて泣きそうになる。でも、こんなことはそう簡単には話せない。
 私がエレベーターで八つ当たりをかました日から、日下部くんとは仕事以外で一切顔を合わせていない。連絡も取っていない。一年前に戻ったようだ。きっとこれが普通なんだろうけれど。
 結局二人は、イルミネーションを見に行ったのだろうか。クリスマスの夜、彼の車は遅くまで駐車場に現れなかった。その日の帰りに一人で歩きながら眺めてきた駅前通りのイルミネーションがあまりにも虚しく思えて、雪がちらついて綺麗なはずのその景色の中にいる自分が馬鹿らしく思えてしまった。
 少し離れたデスクに座る日下部くんと梨花ちゃんにちらりと視線を向けると、以前よりも仲良くなっているように見えるのは、私の偏った目のせいだろうか。
 だめだ。仕事に集中しないと。休み明けの仕事はいつも膨大だし、休みボケで感覚を取り戻すのにも時間がかかる。あっという間に昼休みになり、凝った肩をほぐしながら弁当を取り出した。
「お正月は帰省したの?」
「うん、お互いの実家に一日ずつ。向こうのご両親もいい人たちだから安心した」
「よかったね。私は相変わらず雪かきに駆り出されただけだったよ」
 何気ない会話が心地よい。何も考えずにいられる時間は大事なのだと、改めて実感する。帰省していた間も、実家で何かしていれば気がまぎれて楽だった。お風呂や寝る前のように、一人になる時間があるとどうしてもいろんなことを考えてしまってよくなかった。