「じゃあ宮島さんって呼びます。ところで、このへんで一番いいイルミネーションスポットってどこですか?」
「イルミネーション? ちゃんと見に行くならやっぱり植物園じゃないかなあ。誰かと見に行くの?」
「実は好きな人がいて……誘おうと思ってるんです」
 はにかんだ梨花ちゃんの言葉に、心臓が足元に落ちたような感覚になった。
 ――日下部くんのこと、だろうか。好きな人というのは。
「へえ、いいじゃん。それならなおさら植物園が良いと思うよ。すっごい綺麗だから」
「ありがとうございます! 頑張って誘ってみますね」
 無邪気な梨花ちゃんの声が耳に刺さる。鞄の取っ手をぎゅっと握りしめて、平静を保った。
 誘う勇気も出せない奴は、悔しいとか嫉妬だとかいう資格はない。そう自分に言い聞かせてみる。
 そう、努力した人だけが、行動した人だけが、幸せになれるんだ。
 駅の改札で二人と別れて、家に向かう。マンションのエントランスでまた、日下部くんに会ってしまった。どうしてこうも、会ってしまうのだろうか。
「お疲れ様です」
「……お疲れ様」
 エレベーターを待ちながら、日下部くんはふと静かに切り出した。
「このへんでイルミネーションって言ったら、やっぱり植物園ですかね」
「そうなんじゃない。結構人気らしいし」
 普段、どんな声で話しているのかもう思い出せなくなってしまった。びっくりするほどつっけんどんな返事になってしまったけれど、日下部くんは気にしていない様子だった。その表情に少しだけ安堵しながらエレベーターに乗り込む。
「ですよねえ……水澤さん、今度一緒に行きませんか」
「デートの予習?」
 反射的に飛び出した言葉は、純度一〇〇パーセントの当てつけだった。目を丸くする日下部くんに対してあまりにも自分がみじめで、泣きたくなる。その瞬間にエレベーターの速度が緩んだ。
「イルミネーションは行かないよ。ちゃんと好きな人と行きなよ。じゃあね」
 三階で開いた扉から日下部くんを半ば強引に押し出す。何か言いたそうな彼を無視して閉ボタンを押し、四階に着いたと同時に早足で降りて自室に駆け込んだ。靴も脱がないまま、玄関でうずくまる。胸が苦しくて苦しくて、たまらなかった。
 間違いなく、私は日下部くんが好きだ。